<BOX>井上弟が初王座奪取も兄は「俺に並ぶのはまだ早い」と苦言
プロボクシングの東洋太平洋OPBFスーパーフライ級王座決定戦が6日、後楽園ホールで、同級1位の井上拓真(19歳、大橋)と、同級2位のマーク・アンソニー・ヘラルド(23歳、比国)の間で行われ、井上は、最終回にダウンを奪われる苦しい試合を3-0の判定で制してプロ5戦目にして新王者に輝いた。兄のWB0世界Sフライ級王者、井上尚弥(22歳、大橋)と同じく5戦目のタイトル獲得で、世界への挑戦権を得たが、その兄は、「インパクトが足らない。こんなんじゃ俺に並ぶのはまだまだ」と苦言。大橋会長は「課題も出た。あせらずに次は防衛戦。来年中には世界へ」という青写真を明らかにした。
「井上弟は井上兄よりもっと凄い!」 そのキャッチフレーズ通りとはいかなかった。相手は、39戦31勝(14KO)5敗1分の戦績を持つサウスポーで、WBOの同級2位にランクされたこともあり、2年前には、世界挑戦経験のある向井寛史(六島}を2回KOで沈めたタフネス。大橋会長が「なんでこんな相手と組んだのかと多くの人に言われた」という強敵だったが、拓真は序盤からスピードで圧倒。左のジャブ、左のフックで距離をしっかりと作り、右のストレート、ワンツーでアクセントを加えながら、4回終了後の公開採点ではジャッジの3者が「40-36」のフルマークをつけていた。 だが、そこからペースダウン。右手拳を痛めてしまった影響もあってか、9回にはカウンターを浴び、最終ラウンドには、バランスを崩したところに無理やりにひっかけて倒すような左フックを浴びてダウン。 拓真は「ひっかけられただけのスリップダウン」をアピールをしたが、後味の悪い形で最終ラウンドのゴングを聞くことになった。判定は「115-112」「116-111」「117-110」の完勝。それでも、接近戦でダーティな肘打ちも受け、鎖骨あたりに痣をつくった拓真の口をついたのは、反省の弁。 「きつい試合だった。課題ばかりが出た。こんなんじゃ世界の壁は大きい」 お先に世界のベルトを2つも腰に巻いた兄の試合評は容赦なかった。 「結果はよかったけれど、内容にインパクトがなかった。プロとして魅せるという点に欠けた。1回から最後まで同じで山場を作れない。慎重にいきすぎている。本来の力の半分も出せていないんじゃないか。スピードで上回っているんだから、僕ならもっとプレスをかけてフィニッシュにもっていった。これでは、世界は取れたとしてもファンに支持されるような世界王者にはなれない。俺に並ぶのはまだ早い(笑)」 同じく5戦目で東洋ベルトを巻いた弟にきつい苦言。 それを伝え聞いた拓真は「その通り。そこを踏まえた上でこれから練習していかないと」と、苦笑いを浮かべた。「相手を見すぎてしまうのが課題。いろんな攻撃ができずに単調になった。それに、ひとつ当たった後の次のパンチが出ていなかった。初のタイトルというプレッシャーはなかったんですけどね」 それでも、多彩な左とスピードを活かした距離感。右のパンチの威力と、真正面で下から打つ独特の角度の右アッパーなど、随所に非凡さは見えた。衝撃シーンは作ることができなかったが、内容的には元世界上位ランカーを圧倒したのである。井上家の美学として、並の王者では許せないのかもしれないし、その志は良しではあるが、世界ランカーのスキルは十二分に備えている。