FRB利上げ、むしろ景気の追い風だとしたら-逆張り論理に脚光
ミュア氏を筆頭とする逆張り論者ら(中でもヘッジファンド運営会社グリーンライト・キャピタル創業者デービッド・アインホーン氏は最も有名)は、いくつかの理由から今回は過去の例とは違うと話す。その最たるものが、爆発的に膨らんでいる米国の財政赤字だ。米政府の借金は35兆ドル(約5410兆円)と、ほんの10年前から2倍に拡大した。つまり、政府の借り入れ金利が上昇していることで、毎月500億ドルほどが追加で米国(および外国)の債券投資家の懐に流れ込んでいることを意味する。
この現象によって金利上昇が景気に対して抑制的ではなく刺激的になることは、経済学者ウォーレン・モズラー氏にとっては何年も前から明らかだった。しかし、MMT提唱者の中心的存在として、モズラー氏の解釈は長らくまっとうな理論ではないとして退けられていた。「私はかねてこの点を語ってきた」と話すモズラー氏。主流派の一部がここにきて自身の考えを受け入れるようになったのを目にして、やや正当性が裏付けられた気がしている。
「正気じゃない。理にかなわない」。ミュア氏はこう考え、数年前までモズラー氏を鼻で笑っていた1人だとあっさり認める。だが、新型コロナウイルス流行後に経済が大きく回復した時にデータを精査すると、驚いたことにモズラー氏の考えが正しかったとの結論に至ったという。
「実に奇妙」
バリュー投資家として知られるアインホーン氏は、ミュア氏よりも早い段階でこの理論にたどり着いた。世界的な金融危機を受けて米金融当局が事実上のゼロ金利政策を導入したにもかかわらず、経済が緩慢なペースでしか回復していなかった頃だ。金利を極端に引き上げれば景気を支援しないのは明らかであり、例えば政策金利が8%では借り手への打撃があまりにも大きすぎる。だが、より緩やかな水準に引き上げれば支援するのではないかとアインホーン氏は考えた。
米国の家計は13兆ドル余りの短期利付資産から収入を得ており、利子を支払う必要のある消費者債務5兆ドル(住宅ローンを除く)のほぼ3倍に相当すると指摘する。現在の金利で計算すると、家計にとっては年間で差し引き4000億ドル程度の利益になると同氏は試算している。