【社説】危険な冬の浴室 急激な温度変化に注意を
心身ともにリフレッシュできる浴室は、危険な場所でもある。思いがけない事故で亡くなる人もいる。 朝晩の寒さがつらいこの季節は、急激な温度変化で血圧が上下し、体に深刻な影響を与えるヒートショックに気をつけたい。 暖かい部屋から急に寒い脱衣所や浴室へ行くと、血管が収縮して血圧が上昇する。体が冷えたまま熱い湯に漬かると、今度は血管が急拡張して血圧が下がる。 短時間での血圧変動は心臓に負担がかかり、心筋梗塞や脳卒中などを引き起こす。 長風呂を好む人も多いだろう。あまり長く漬かり過ぎると体温が上昇し、意識障害や熱中症になる恐れがあることを知っておきたい。 高血圧や動脈硬化のある人は留意してほしい。熱過ぎる湯も体へのダメージが大きいので、湯温はほどほどにして楽しむことが肝要だ。 高齢者が入浴するときは、家族や周囲の人たちが注意しておきたい。 厚生労働省によると高齢者の不慮の事故で、死因が浴槽での「溺死および溺水」だったのは、昨年が約6500人だった。多くは家や居住施設の浴槽で亡くなっている。 12月と1月が多いのは、急な血圧変動や体温上昇を起こしやすいからだ。 交通事故の死者約2100人と比べると、高齢者にとっての浴室は道路の何倍も危険な場所と言えそうだ。 床が滑りやすいので、転倒すると大けがにつながる。寒さで筋肉が硬直すると転びやすいそうだ。 湯船に漬かったまま眠っているうちに湯が冷め、体温が急激に低下して救急搬送された事例もある。眠ってしまうと溺れる危険性も高まる。 心配なのは高齢者ばかりではない。「入浴中に起きた不慮の事故」で亡くなった俳優で歌手の中山美穂さんは50代だった。浴槽での事故は誰にでも起こり得る。 消費者庁などが望ましい入浴法を紹介している。 (1)温度差を減らすため、脱衣所や浴室を前もって暖める(2)入浴前、入浴中に水分を補給する(3)湯温は41度以下で、湯に漬かる時間は10分まで(4)浴槽内で意識がもうろうとしたら、気を失う前に湯を抜く-などだ。普段の入浴を思い浮かべ、参考にしよう。 浴室に暖房設備がない場合は、シャワーで浴槽に湯を入れたり、湯が沸いたところで浴槽をよくかき混ぜたりすると蒸気で暖められる。浴室の扉を開けておけば脱衣所の温度を上げることも可能だ。 電気代やガス代がもったいないと考える人がいるかもしれない。熱中症予防でエアコンを使うことと大きな違いはない。 家族や親類が集まる年末年始に浴室、脱衣所を点検し、不慮の事故を防ぐ対策を確認してみてはどうだろう。自身や家族、身近な人の命を守るためである。
西日本新聞