光る君へ、衝撃の展開…大河オリジナルキャラ「直秀」の果たした役割 〝決定的な身分差〟描く
紫式部を主人公にした大河ドラマ「光る君へ」。平安文学を愛する編集者のたらればさんは、「貴族しか登場しない『源氏物語』では語ることができなかった〝決定的な身分差〟を、今回の大河ドラマではオリジナルキャラ・直秀を通して描いた」と語ります。直秀が果たしてきた役割を、たらればさんとともに語り合いました。(withnews編集部・水野梓) 【画像】「光る君へ」たらればさんの長文つぶやき この1年「情緒がもつのか…」
鳥辺野に連れていかれた一座は
紫式部を主人公にした大河ドラマ「光る君へ」では、奈良時代に中国にもたらされ、平安時代には路上で庶民に披露されるようになった芸能「散楽(さんがく)」の一座が登場します。 そのうちのひとりが、毎熊克哉さん演じる「直秀」です。貴族ながら盗賊だったという伝説の「藤原保輔」がモデルではないかとも指摘されており、庶民たちに貴族を皮肉った芸を披露し、まひろや道長にも影響を与えていきます。 貴族の家から盗んだものを庶民に分け与える「義賊」の一面もあったため、屋敷へ盗みに入ったところを道長たちに捕らえられてしまいます。 第9回「遠くの国」では葬送の地〝鳥辺野(とりべの)〟に連れていかれ、一座のメンバー全員が検非違使に殺されてしまいます。 編集者のたらればさんは「史実にないオリジナルキャラなので、いつどうなってしまうのか分からないと心配はしていましたが、まさかこんなに早く…」と声を落とします。
「現代版源氏物語」必要なカギ
水野梓(withnews編集長):たらればさんは「直秀」というキャラクターをどうとらえていましたか? たらればさん:直秀は「現代版源氏物語」に必要なカギだったと思っています。 源氏物語の登場人物や対象読者は当時の貴族たちで、だから「決定的な身分差」や「貴族社会の外」を描けなかったんですね。 だから当然、僕たち令和の世の人間がそのまま源氏物語を読むと、ひっかかるところがあります。 たらればさん:いっぽうで、今の時代に紫式部の生涯を描くのであれば、やはり身分制度や男女差にまつわる理不尽さについては触れざるをえないだろうとも思います。 これは「(現代と当時で)どちらの社会がいいか」という話ではなく、根本的な価値基準が違う。だからこそ、いま紫式部の人生を描くなら、直秀というキャラクターが必要だったんだろうなと思いました。 水野:第8回では「都の向こうへ行く」と話す直秀が、まひろを誘ったあと「行かねぇよな」と寂しそうに言うシーンも印象的でしたね。 たらればさん:まさにまさに。まひろの(直秀とともに貴族社会の「外」へ)「行っちゃおう…かな…」というセリフは、平安時代に生きた紫式部には書けなかった。 大和和紀先生の「あさきゆめみし」というマンガでは、源氏物語に登場する「近江の君」というキャラクターが、貴族の身分を捨てて庶民に戻るというオリジナルのシーンがあるんです。 【関連記事】「あさきゆめみし」に隠された…同業者も気づかなかったトリック https://withnews.jp/article/f0220211001qq000000000000000W02c11001qq000024267A 早口でだじゃれやゲーム(すごろく)が好きといった近江の君のキャラクター自体は、源氏物語と似ているんですが、「元の庶民の暮らしに戻ります」と退場するシーンは、「大和先生が、今の視線を盛り込んで描いたこと」です。 今回の大河ドラマでは、毎熊さん演じる直秀が貴族たちの身分や、貴族たちにはできない「都を捨てて遠くへ行く」ことを表現する役割を果たしてくれていました。 今後も、西洋の物語で王様の隣にいるピエロみたいに、あるいは少女マンガで主人公カップルのそばにいる不良の友人みたいに、物語をかき回して動かしてほしいと思っていたら…こんなに早く退場してしまうとは…あと20話ぐらいいてほしかったです……。