また6年...独裁者マドゥロ「怪しい再選」で次に起きること ベネズエラ国民4人に1人が移住を検討
26年ぶりの変革に国民は期待を寄せたが、今回も勝ったのは現職ニコラス・マドゥロ大統領。「不正が行われた」との見方がもっぱらだ
ベネズエラ大統領選挙が行われた7月28日、国民は夜遅くまで起きて開票結果を見守った。1998年に左派のポピュリスト、ウゴ・チャベスが政権の座に就いて以来の大きな政治的変革を期待したのだ。 【動画】ゴンザレスの呼び掛けも...「再選」を受けて暴徒化したベネズエラ抗議デモ だが勝利したのは、チャベスの後継者で3期目を目指す現職のニコラス・マドゥロ。独裁的な左派政権がさらに6年間、続くことになる。 全国選挙管理委員会はマドゥロの与党・統一社会党の影響下にあり、今回も不正が行われたとの見方がもっぱらだ。公式発表では、マドゥロの得票率は51%。だが事前の世論調査や出口調査では、野党統一候補のエドムンド・ゴンサレスが大幅にリードしていた。 「何が起きたかはベネズエラ国民と全世界が知っている」とゴンサレスは述べた。野党指導者のマリア・コリナ・マチャドは、ゴンサレスの得票率は約70%だったと述べた。マチャドは高いカリスマ性で知られるが、大統領選への立候補を禁じられ、ゴンサレスを応援してきた。 ゴンサレスは支持者に対し、デモなどは行わず、暴力に訴えることのないよう呼びかけた。これを受けて、首都カラカスの多くの地区では29日、鍋やフライパンをたたく音が響いた。これは中南米の伝統的な抗議行動のやり方で、「カセロラソ」と呼ばれる。 政権打倒を狙った試みはこれまで何度も行われたし、経済制裁などの外国からの圧力もあったが、いずれも結果には結び付かなかった。専門家や政治家は政権交代の可能性について悲観的な見方を示す。 「国際社会の選択肢は限られているし、(マドゥロ政権と野党側や諸外国との)対話からも、近い将来ベネズエラで大きな政治的変革が実現する見通しは暗いことがうかがえる」と、アンデス大学(コロンビア)のサンドラ・ボルダ教授は本誌に語った。 マドゥロ政権発足以降の10年間に、数百万人のベネズエラ国民が国を去った。ハイパーインフレの原因となった経済政策や周辺諸国からの圧力、そして新型コロナウイルスのパンデミックがその流れに拍車をかけた。 米シンクタンクの移民政策研究所のデータによれば、2010年以降、アメリカへのベネズエラ人移民の数はほぼ3倍に増えた。 ベネズエラ情勢の先は見えない。フリオ・ボルヘス元国会議長ら野党指導者からは、軍に対して「国民の意思を守る」行動を取るよう呼びかける声まで出ている。 ベネズエラの調査会社デルフォスが6月に行った全国規模の世論調査によれば、約4人に1人が外国への移住を検討していて、その主な理由は経済問題だという。ちなみに移住を考えている人のうち、約半数は大統領選で野党が勝利したり、経済情勢が改善すれば国に残ると答えている。 今後、マドゥロが野党への圧力を強めるシナリオもあり得る。特に標的になりそうなのがマチャドだ。タレク・ウィリアム・サーブ検事総長は、マチャドが「アメリカの勢力」と手を組んで、大統領選の開票システムをハッキングしたと非難している。 国際社会におけるベネズエラの政治的孤立がさらに深まる可能性もある。もっともマドゥロはこれまで、そうした状況をうまく切り抜けてきた。 例えば19年にはフアン・グアイド国会議長(当時)が暫定大統領への就任を宣言し、2人の大統領が並び立つという事態が続いた。グアイドはアメリカなど西側諸国の支持を集めたが、マドゥロ政権を倒すことはできず失脚。フロリダで亡命生活を送っている。
ヘスス・メサ