メイド喫茶の広告を期末テストに出題!世田谷学園のスゴいジェンダー教育…「道徳を押し付けない」独自科目の中身
■ 生徒が「鉄道の自動運転」で50分講義 猪俣さんの授業では、冒頭に毎回1人の生徒が最近気になるニュースを紹介するコーナーを設けている。この日、そのコーナーを担当した生徒は「授業をまるまるつぶす気で準備してきたんで、よろしくお願いします」と教壇に上がった。 鉄道の自動運転に関するニュースを紹介した。その技術のしくみ、意味、何が可能になるのか、何が懸念点なのかなどをわかりやすく説明する。時折「なんでだと思う?」などと問いを投げかけ、みんなの注意をうまく引く。教室が一つになり、発言が発言を誘発するサイクルが生まれ、話題がどんどん膨らむ。話はリニアモーターカーの工事のしくみやその是非までにおよんだ。 20分ほどだったところで猪俣さんが私に耳打ちする。「これ、止めるわけにもいかないんで、もしかしたら、このまま本当に行っちゃうかもしれません。せっかくお越しいただいたのに、すみません」。「いえいえ、これは止めちゃダメですよ。彼、すごいですね。このまま行っちゃいましょう!」と私は答えた。本当に50分間、そのまま生徒が喋り続けた。見事な「授業」だった。 日を改めて、4コマ目の授業を見学した。上野千鶴子さんのスピーチを見てからちょっと日にちが空いてしまったが、書き起こした文章を読みながら、上野さんが何を問題提起しているのかを挙げていく。
■ 東大のサークルに「東大女子」が入れない理由 (1)大学において、医学部の男性の合格率が高い。 これにちなんで、各大学の女性比率や学部別の男女比率などのデータも見せる。不自然な偏りがあることがわかる。 (2)東大の女子学生の入学者が2割を超えない。 東大の総長には過去一人も女性がおらず、そもそも女性の教授の比率がとても少ないことを伝える。東大だけでなく、一般企業でも女性の役員比率がとても低いことをデータで示す。 (3)四年制大学進学率は、男性に比べて女性が低い。 「息子は四年制、娘は短大でいい」というような親による性差別もあることを指摘する。「ズルい!」という声があがる。 (4)東大に進学した女性は大学名を言うのに躊躇する傾向にある。 男性には学歴が求められるのに、女性の場合むしろ「かわいい≒男性に守ってもらえる、男性を脅かさない」ことを求められる傾向があることを指摘する。 (5)東大女子が入れず、他大学の女子しか入れないサークルがある。 「なんで東大女子は入れないんでしょうね?」と猪俣さんは問いかける。 上野さんの指摘を、構造的に理解できた生徒はおそらくまだ少ないのではないかと思う。しかし、ジェンダーの単元の最後に、再びこのスピーチを読んで、自分の理解度がどれだけ深まったかをチェックする意図がある。 「まとめるとですね……」と言って猪俣さんは、「恵まれた能力をもっていても、恵まれた環境に身を置けない人たちがいる」と書かれたスライドを映写し、その大きな要因の一つがジェンダーだと訴える。 さらに、性的な嫌がらせや性差別を経験した女子が62%いること、日本のジェンダー・ギャップ指数が153カ国中125位であること(2020年)、四年制大学への進学率は男子56.31%、女子50.14%と差があることをデータで示してこの日の授業が終わった。 テキストの先を読むと、これが非常に良くできている。日本史の観点からも世界史の観点からも地理の観点からも公民の観点からも、ジェンダーに関するところが抜き出され、横串が通されている。