自己肯定感は低い、でもそのほうが成長できる――上白石萌音が抱え続ける「マイナスの焦り」
そんな上白石が、見ないようにしているものがあるという。SNSだ。 「容姿のことや表現力のことで、嫌なことを言われたりしますけど、そういう声にはすごく共感します。だって、わかるから(笑)。『わかるから痛い』って感じですね。特に見た目のことを言われると、『でもさ、どうしようもないんだよね』って思う。だから怒りよりは悲しみにいきます」 その悲しみは、必ずしも仕事に昇華されるとは限らないという。 「バネにはなりますけどね。でも、そういうときにできた傷って完治はしないので。『これが悲しみ』って思うしかない。でも、そういうときに救ってくれるのもエンタメ。だから『この仕事で悩み、この仕事に救われ』っていう感じです」
2021年、上白石はデビュー10周年を迎えた。はた目には華々しいキャリアを歩んできた彼女だが、自己肯定感について聞くと、意外な答えが返ってきた。 「自己肯定感は低いですね。公に出ている私と、私自身って切り離しているところはあります。私はすごく自信がないし、自分のこともそんなに好きじゃないけど、表に出て、ステージに立って、カメラの前に立ったら、そんなこと言ってられないので。そこにまずギャップがありますね」 家に帰ると、仕事の場とは異なる自分がいるという。 「めちゃくちゃ仕事の準備をします、『大丈夫かな、大丈夫かな?』って思いながら(笑)。自己肯定感が低いから準備をするんだと思います。悩んでる人は多いと思うんですよ、『自信をつけたい』って。でも、『自信がなくていいと思うんだけどな』って。自信がないまま頑張って、奇跡的にでも一回発揮できれば、それがまたお守りになって頑張れる。自信がないほうが成長するかなって、ここ最近思えるようになりました」
自分にはエゴも個性もほぼない
今月にはカバーアルバム『あの歌』を2枚同時発売する。70年代の楽曲をカバーした『あの歌-1-』、80~90年代の楽曲をカバーした『あの歌-2-』の2作だ。みんなが知っている楽曲をカバーで共有したいという気持ちと、自分自身を表現したいというアーティストエゴのどちらが強いかを聞くと、驚くほどの勢いで即答した。 「エゴはほぼないです。私は、作詞はしますが作曲ができなくって。伝えたいことがあって、どうしても言いたいから歌っているっていうのとはちょっと違うんですよね。曲をいただいて、歌詞にすごく共感して、『あ、これは言いたい』と思って歌っているので」 そんな上白石の目には、同世代のシンガー・ソングライターたちの自己表現はどう映っているのだろうか。 「かっこいいです。エゴはないと言いながら、そうなってみたいって憧れる自分もいます。今は作詞自体もとっても恥ずかしい。エゴは出そうと思わなくても出てしまうものだと思っているので。たぶん役者の仕事もしているからだと思うんですけど、『自分が言いたい』というよりは『この言葉がどう伝わるべきか』を考えるんです。役者は作品全体のことを考えるし、監督の意向に沿いたいし、強過ぎるエゴは邪魔だと思います。もともと人に合わせることに心地良さは感じていました。だから自分は個性がないほうだと思うし、人の話を聞くほうがしゃべるより好きです。長女だからかもしれません」