【#佐藤優のシン世界地図探索91】"トランプ王"誕生の余波が韓国から北朝鮮、そして日本に...
佐藤 そう、戒厳令よりもそっちがヤバいんです。尹大統領がどんなに変な人間でも、それを特殊部隊、軍隊が機械のごとく忠実に遂行するべきで、自ら判断したらいけません。全責任は大統領が取るわけですからね。ところが、韓国の世論は「誰がやったんだ?」となって、直接、部隊に迫ってきます。 ――そういえば、本来は機密扱いで、公の場に出てはいけない韓国陸軍特殊戦司令部「707特殊任務団」のキム・ヒョンテ大佐特殊部隊長が記者会見を行ないました。 そして、そこでは前国防相の指示に従ったと明かし、「戦闘でこのような命令をしていたら全員死亡していただろう」と発言していました。 佐藤 逆もあるわけです。 ――そうすると、韓国軍に比べるとシリアの軍と秘密警察はなんて素晴らしいんだ!ということですね。 佐藤 シリアの軍と秘密警察は、最初から命令を聞かないと決めていました。しかもその時点で、すでに首相を味方に付けていました。首相が「暫定政権を作ろう」と言って政権移譲したうえで、反体制である新しい権力と話していますからね。だから、アサドとアサドの家族以外の全員が裏切っているわけです。 ――韓国と比べると、なんと美しい!! 佐藤 これは独裁政権の特徴ですよね。大きな独裁権力を持っていると思っていても、逆に独裁権力がある故に、ひっくり返ると恐ろしい事態になります。 結局、独裁者の周りの連中は自分の命が大切ですからね。秘密警察と軍から見放された独裁者はこうなるということですよ。だから、他国の独裁者にはすごく良い教訓ですね。 ――すると、北の太った兄貴は、いま一生懸命学んでいるのでしょうか? 佐藤 金正恩は非常に学んでいると思いますよ。 ――これから北で大処刑大会になりますか?
佐藤 忠誠心一本に絞ったチェックが、しょっちゅう入ると思いますよ。 韓国に関してもうひとつ付け加えると、日本にとっても現在の韓国はインテリジェンス(諜報)の対象です。通常、友好国にはインテリジェンスは仕掛けません。しかし、いまは北よりも韓国のほうが予測不能だからです。 すると、韓国政府や情報機関が発信していることに対して、本当かどうかいつも疑ってかからないとならなくなります。特にこういう状況になって、国家情報院の言うことは信用できますか? 彼ら自身の生き残りがかかっているんですよ。 ――信用できないと思います。 佐藤 だから、韓国の言うことは額面通りに受け取れないので、裏取りしてチェックしないとならなりません。それから、日米韓の防衛協議ですが......。 ――あれはやめたほうがいいと思います。 佐藤 そう。危ないという話なんですよ。 ――ならば、北朝鮮に聞いてみるとか? 佐藤 北には、聞こえている部分とそうでない部分があります。つまり、北の発言に関して金正恩総書記なり金与正氏が何を考えているか、日本で判断することが必要です。そして同時に、北はキープレーヤーになります。 ――どういうことでしょうか? 佐藤 2023年12月に北朝鮮は韓国に対する方針を変えました。韓国を第一の敵とし、統一しないとしました。それは、お互いに主権国家だから、ゲームのルールを守るということになります。だから北の南侵はないと安心して言える状況でした。 ところが、今回の韓国のクーデターを見て、「これは韓国に介入の余地があるぞ」と受け取り、北が再び韓国を「同胞」と言い出すかもしれません。 ――「同胞」と言い出すと、南侵する怖さが出てくる?