「日本航空123便の墜落事故」調査責任者の記録”松尾ファイル”が初公開 原因究明を遅らせたものとは(レビュー)
死者520人を出し、航空史上最悪の惨事と語り継がれる日本航空123便墜落事故。発生当時、日航取締役で事故調査の最高責任者だった松尾芳郎氏が残していた記録を読み解き、未曾有の事故を新たな視点で見つめ直している。松尾ファイルが公表されるのは初めてだという。 同機が事故の約7年前に起こしていた「しりもち事故」が墜落の原因だったことはよく知られている。修理にあたったボーイング社がミスを犯したため、圧力隔壁に疲労亀裂が生じ、飛行中に垂直尾翼を失う事態に陥った。事故後にボーイング側も修理ミスがあったことを認める声明を出した。だが、同社の責任を追及する声は大きくならなかった。 〈新聞、テレビなどの報道は「日航がボーイング社の修理ミスを見逃し、見落とした」「修理ミスは日航の領収検査や定期点検で発見できたはず」と日本航空を批判し、責め立てた。世論もその方向になびいた〉 逆風を一身に浴びた松尾氏らの体験談が読みどころ。運輸省航空事故調査委員会の報告書は、不正確で納得しがたいものだったが、修正の要望はことごとく無視された。警察や検察の取り調べでは、怒鳴られ、脅され、刑事責任を認めるように執拗に迫られた。ちなみに捜査対象の全員が不起訴処分となっている。 著者は元産経新聞論説委員。航空担当記者として日航機事故の事後処理も取材していた。松尾氏の話を聞くまでは、修理ミスを見逃した日航の責任が重く〈厳しい取り調べを受けるのは、当たり前だと思っていた〉と正直に明かしている。 もちろん日航にも負うべき責任はある。でも読みながら浮かんできたのは「スケープゴート」という言葉だった。本書では〈マスコミをはじめ日本の社会全体が日航を悪者扱いしていた〉せいで、最も大切な原因究明が滞った可能性も指摘される。40年の時を経て封印が解かれた貴重な証言とともに記憶しておきたい。 [レビュアー]篠原知存(ライター) 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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