幸運を呼ぶ新年の菓子ガレット デ ロワ、「当たり」が出たら王様に 日本一シェフの逸品
■手間暇かかる技法 バターの風味際立つ
一口いただくと、これまで食べたいくつものガレット デ ロワとは明らかに違う味わいに驚かされました。まずはパイ生地のおいしさです。バターの香りをたっぷり封じ込め、緻密でサクサクと快い歯応え、そして口の中でほろほろとほどけていく軽さ。 「折りパイ(フィユタージュ)の生地はアンヴェルセという技法にこだわりました」。これは生地の中にバターを折り込むのではなく、シート状のバター生地を外側にして生地を折り込む技法です。 「通常よりもバターの配合が多く、折り込みも難しいのですが、軽い仕上がりになり、かつ、バターの風味をふんだんに感じられます」。ミルフィーユなどにも使われるこのプレミアムなパイ生地は、1枚が256層になるよう折られています。「4つ折りを4回、パイ生地の厚さは2.8ミリ。それが一番おいしいと思っています」 続いてクリームです。「スペシャルなフレーバーのガレット デ ロワを作るにあたり、和と洋の組み合わせを意識しました」。アーモンドクリームに抹茶と抹茶チョコレートを加えた抹茶クリームと、アーモンドクリームにココナツファイン(ココナツの実を乾燥させて粉砕したもの)、ココナツリキュールなどを加えたココナツクリームを合わせています。ココナツの甘い香りで抹茶の渋みを和らげる狙いでしたが、そのマリアージュが大成功。クラシックなガレット デ ロワよりも深い味わいの後に、クリーミーな風味が絶妙な余韻を残します。 パイ表面の模様もオリジナル。クラシックなモチーフである麦や月桂樹に加えて、組子細工をイメージした柄を描きました。これはアンダーズ東京の館内の随所に置かれた和風のアートや、レセプションにあしらわれている組子細工からインスピレーションを得たとのことです。
■1月限定の味 フランスの食文化にリスペクト
ちなみにアンダーズ東京で販売するガレット デ ロワには、伝統的なフェーブの代わりにアーモンドを一粒入れ、別添えでかわいらしいミニチュアの王冠をお渡しするそうです。これは衛生面などへの配慮から。もし、あなたのピースにアーモンドが入っていたら、それは単なるパイの具材ではなく、大当たりの証拠なのです。 片田さんが抹茶&ココに描いた複雑な模様を見て、厨房で一緒に働くシェフたちは「こんなに美しいガレット、見たことがないよ!」と称賛したそうです。「包丁で模様を描いていくのですが、美しい仕上がりになると達成感があります。完全に自己満足なんですけどね」と片田さんは照れくさそうに笑います。 販売期間は1月いっぱいに限っています。それを残念がるお客さんがいることは重々承知していますが、「フランスの食文化を知っていただきたいという思いもありますので」。この期間、店頭に並ぶのはクラシックタイプが5ホール、抹茶&ココが5ホール。手に入れられた幸運に加え、もしアーモンドが当たったら、きっとこの1年を楽しく、心安らかに過ごせることでしょう。 文:THE NIKKEI MAGAZINE 編集長 松本和佳 ※この記事は「THE NIKKEI MAGAZINE」の記事を再構成して配信しています。