『量産型リコ3』はホームドラマの傑作 与田祐希が“量産型”のヒロインだからこその新しさ
与田祐希が“量産型”ヒロインを演じる意義
たとえば第7話では、リコが幼なじみの浅井祐樹(前田旺志郎)に突然告白される。2人は幼少期にある約束をしたが、リコは全く覚えていない。2人は一緒に人助けをする中で凶暴なイノシシと戦うことになるのだが、この回に登場するプラモは「怪獣8号」。 怪獣8号は松本直也の漫画『怪獣8号』(集英社)に登場する主人公の日比野カフカが変身する人型怪獣のことだ。本作は怪獣と戦う防衛隊の物語で、カフカと防衛隊・隊長の亜白ミナは「自分たちの街を破壊した怪獣を倒そう」と幼少期に誓い合った幼なじみ。 このカフカとミナの関係とリコと浅井の関係を重ねて第7話は描かれており、それぞれのプラモの背景にある物語や設定を劇中の物語と重ねることで、重層的な広がりを獲得しているのだ。 また、本作の大きなテーマに「量産型」という言葉がある。 リコはすべてが平均点で突出した個性も情熱を傾ける対象も持たない現状維持がモットーの女性で、周囲からは「量産型」だと揶揄されている。このヒロイン像は『量産型リコ』の最大の特徴で、第1シーズンを観た時は「こんなに消極的なヒロインで良いのだろうか?」と唖然としたが、むしろこのヒロイン像こそが本作の新しさだったのではないかと、今は思う。 そんなリコが、プラモ作りという趣味と出会ったことで変わっていく姿が劇中では描かれる。だが、本作はプラモ作りという趣味を身につけることでリコが脱・量産型を果たす物語ではない。むしろ「量産型」という揶揄の言葉をポジティブな意味に読み替えていく姿がこれまで描かれてきた。 それは舞台を会社から家族に移したシーズン3でも健在だ。本作でもリコは量産型と家族から言われているのだが、亡くなった祖父も家族にとっては「優しい」以上の特徴が特にない普通(量産型)の人間だとリコは感じていた。しかし祖父の趣味だったプラモ作りを通して、祖父には家族に見せる優しい顔とは違うお茶目で情熱家という別の顔があったことを知るようになる。 会社が舞台だった前二作では、会社の同僚とプラモ作りをすることで、リコが相手のことを理解し、プラモを作ることで仲間の悩みが解消される場面が描かれた。対して今回は、プラモ作りを家族と一緒におこなうことで、今まで知らなかった家族の意外な一面が明らかになっていく。 舞台が家族に移ったことで「量産型」というテーマの描き方も、より普遍的なものに接近している。 プラモ作りを通して家族のことを知っていく中で、リコは量産型=普通の人生の奥深さを知っていく。プラモ作りを入り口としたホームドラマの傑作である。
成馬零一