岡ちゃん“秘蔵っ子”が湘南を勝利に導いた理由とは?
勝ちどきが響きわたる湘南ベルマーレのロッカールーム。曹貴裁(チョウ・キジェ)監督のスマートフォンにおもむろに着信が入ったのは、試合後の公式会見に臨む直前だった。 「調子に乗るなと、伝えておいてください」 ホームのShonan BMWスタジアム平塚でベガルタ仙台を2-1で撃破し、連敗を2で止めた17日の明治安田生命J1リーグ第4節後のひとコマ。祝福の言葉とともに受話器越しにメッセージを託してきたのは、JFLを戦うFC今治の代表取締役会長兼オーナーを務める岡田武史氏だった。 そして、曹監督を介して元日本代表監督から檄を受け取ったのは、このオフに今治から期限付き移籍でベルマーレへ加入した小野田将人。3バックの左ストッパーとしてベガルタ戦でリーグ戦初出場を先発で飾った22歳は、前半43分には0-0の均衡を破るゴールまで決めていた。 「今日の試合を、岡田さんもご覧になっていたんでしょうね。小野田の活躍は、岡田さんとしても嬉しかったんだと思います」 短い言葉に込められた意味を、曹監督も感慨深そうにかみしめる。 ただ、素朴な疑問が残る。数えれば4部に相当するJFLから「3階級特進」で、小野田がJ1へ駆けあがったのはなぜなのか。 答えは早稲田大学ア式蹴球部の先輩と後輩の関係にある、岡田氏と曹監督を結ぶ強く太い絆だった。 岡田氏が現職に就いたのは2014年11月。以来、曹監督は年に一度、シーズンの合間を縫っては愛媛県今治市を訪ね、大先輩と時間を共有してきた。岡田氏から幾度となく「お前は正直者すぎるよ」とダメ出しをされてきた曹監督は、今治へ足を運ぶ理由をこう語ったことがある。 「日本代表を一番上のステージ、ワールドカップの舞台に2度も導いた代表監督経験者の言葉には含蓄があります。岡田さんからは『自分のやりたいスタイルや戦い方を貫くだけではダメだ。嵐に見舞われたときには、それなりのことをしなければいけない』と何度も指摘されてきました」 岡田氏もまた、2012シーズンからベルマーレを率い、長くJ2に低迷してきたチームを3度のJ1昇格へと導いた曹監督の情熱的な指導を高く評価している。指揮官が2018年2月に上梓した著書『育成主義』(カンゼン刊)の帯には、岡田氏のこんな推薦文が綴られている。 <まっすぐな男が正面からぶつかっていくから 曹のチームは一直線に成長していく。> 今治を訪れるのは夏場。そして、昨年の滞在中に曹監督の目に飛び込んできたのが小野田だった。岡田オーナー、そして今治のスポーツディレクターを務めていた高司裕也氏を交えた話し合いのなかで、秋になってベルマーレの練習へ1週間ほど参加することが決まった。 そして、ベルマーレのコーチングスタッフや強化部も高評価を与え、期限付き移籍のオファーが正式に出された。