『虎に翼』寅子が見た日本国憲法第14条。「男女平等」と22歳米国人女性の深い関係
「虎に翼」の核でもある憲法第14条の背景
放映後に、毎日のようにX(旧Twitter)のトレンドに上がるNHKの朝ドラ『虎に翼』。主人公寅子だけでなく、登場人物に一喜一憂し、生き様に自分を重ね、共感する人が増えている。 【写真】寅子を新たに羽ばたかせる憲法14条の基盤を作ったベアテさんという女性 5月27日からの週は、寅子の兄の戦死、夫の戦病死、父の病死……多くの人が直面したであろう「戦争と死」が描かれた。5月30日の放送回では、父親によって隠されていた夫・優三の死が今も消化できず、悲しむことさえ封じ込んでいた寅子の感情が一気に露呈するシーンに涙した人も多かったことだろう。寅子は夫の想い出とともに泣きながら焼き鳥を食べる。そして食べ終わってふと焼き鳥を包んでいた新聞紙を見ると、そこに書かれていたのが「日本国憲法」だった。 この場面は、第1回目のドラマ開始の冒頭のシーンと繋がっている。終戦から1年後の1946年(昭和21年)11月3日に公布された「日本国憲法」。そのシーンでは、第14条の「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」の一文がナレーションで語られ、画面には、戦後の人々の姿が重なった。橋の下で暮らす老女、米兵相手に生きる糧を求める女性、屋台でふかし芋を売る元甘味屋の夫婦、懸命に街を復興させている労働者、埃にまみれた衣服で必死に新聞をむさぼり読む少女が最後に映し出された。 一度は妊娠・出産で法曹界から身を引いてしまった寅子。戦争によって仕事も夫も失い、生き方を見失いかけていた……。そんな彼女が、再び法曹界へと一歩を踏み出す。その大きなきっかけとなったのが、新たに公布された日本国憲法であり、憲法第14条であったに違いない。 夫・優三が戦地に向かう別れの時寅子に語った言葉は、多くの人の胸を打った。 「トラちゃんができるのは、トラちゃんの好きに生きることです。また弁護士をしてもいい。違う仕事を始めてもいい。優未のいいお母さんでいてもいい。僕の大好きな、あの、何かに無我夢中になってる時のトラちゃんの顔をして、何かを頑張ってくれること。いや、やっぱり頑張んなくてもいい。トラちゃんが後悔せず、心から人生をやり切ってくれること。それが僕の望みです」 この言葉こそ、何者でもいいのだという第14条を象徴するセリフであり、寅子にとっても憲法第14条は希望であり、未来を感じることができる唯一の「救い」になっていくのであろう。 そして、この憲法第14条、男女平等を盛り込んだ日本国憲法の草案を作ったメンバーには、戦前日本に長く暮らした経験を持つ「ベアテ・シロタ・ゴードン」という22歳のウクライナ系アメリカ人女性の存在があった。当時の世界でも男女平等を憲法に盛り込んでいる国は少なく、異論を唱える声も多かったというが、彼女はその意見に負けなかったと伝えられている。ベアテの存在は、戦後、寅子を始め、多くの女性たちが羽ばたく基盤を作ってくれた存在ともいるのだ。 そんな「ベアテ・シロタ・ゴードン」に関する記事を、ウクライナが戦時下になった2022年に、著書『ソーシャルジャスティス 小児精神科医、社会を診る』(文春新書)が話題の小児精神科医でハーバード大学医学部准教授の内田舞さんが寄稿してくれた。 内田さんはこう語っていた。 「子どもの頃、彼女の自伝を読んで感銘しとても影響を受けました。ウクライナが戦火になり、遠い国の出来事なのではなく、実は日本に男女平等を運んでくれた一人が、ウクライナ系アメリカ人であったことをもっと多くの人に知ってほしい」 今回、『虎に翼』で日本国憲法がクローズアップされるこの機会に今一度、第14条がどのような背景で作られたのか、ベアテ・シロタ・ゴードンの憲法第14条への思いをぜひとも知ってほしい。内田舞さんの過去記事を一部改編してお届けする。 次ページより、内田医師の原稿です。