夢を叶えて移住した『北欧こじらせ日記』の著者chikaさん「私にはその発想がなかった」フィンランドで衝撃を受けた仕事観
衝撃を受けた2つの出来事
chikaさんのエッセイにはフィンランドで過ごす日常だけでなく、出会った人とのふとした会話がきっかけとなり、人生や仕事への価値観が変わったというようなエピソードもある。 起業編では「仕事観」や「休暇」に対する、周りにいるフィンランドの人々とchikaさん自身の考え方の違いが触れられている。 中でも、移住当初、就職先のすしレストランにいた同僚の仕事観は「自分の人生の時間の使い方を意識するきっかけになった」と振り返る。 「フィンランドで働いて2つ印象的なことがありました。1つは無給休暇、もうひとつがパート・オブ・ライフ。フィンランドでは1年に1カ月の長い夏休みがあると聞いていたのですが、それは勤続1年後から。私を含め全員がオープニングスタップだったので、休みが取れず、働く稼働日数としては、日本で会社員をしている以上に働いていました。 そのなかで同僚が、『無給でいい』と1カ月休みを取ったことに驚きました。私にその発想がなかったので。お金より休むことに価値を置いて、自分に必要な時間は自分で作り出すという姿勢を学んだのは大きいです」 もうひとつの「パート・オブ・ライフ」は、そのレストランのヘッドシェフから学んだと語る。 「彼の口癖でした。勤務初日に『仕事は大事だけど、一番は自分の家族や人生、そういったことも大事にしたい。健康に気をつけて休みを取るように』と、みんなに伝えていました」 chikaさんは「私が無給休暇を選んでまで休まなかったのは、働き続けることが私にとってのコンフォートゾーンだったんです。働くことで自分が必要とされる人になれる、と自己犠牲のようなことをしていました。でも同僚やシェフの話から、それは長くは続かないと気づいたんです」と話した。
フィンランドで学んだ「休む」こと
こうした「仕事観」を学んだchikaさんだったが、個人事業主として働き始めると、日本での会社員時代やすしレストランなどでがむしゃらに働いていた生き方の余韻が残り、休みの作り方がわからなくなったという。 そして、「休み方」について、起業時に頼りにしたヘルシンキ市の職業安定所にいたビジネスアドバイザーからも指摘を受けたと話す。 「休みを取らずに働く人は個人事業主には多いと言われて、アドバイザーから起業する際に休みの取り方まで教わることができました 。起業することは簡単でも続けることは難しく、自分を律しないと長く続かない。ビジネスも大事だけど休むことも仕事の一つ、だと。行政の方からそういった話をされるなんて、本当に驚きました」 著書には移住2年目の秋にはじめて2週間のホリデーを取り、ドイツやスイスなどヨーロッパを旅行したエピソードも盛り込まれている。 「スイスのアルプス山脈は、自分の歩みを振り返るきっかけになりました。移住後の歩みと山登りの過程が重なり、泣けてしまいました。地面を踏みしめながら歩いて、ふと見上げて後ろを見ると、登りはじめでは見えなかった遠くの山脈まで見えて。歩いて登ってきた分、景色が見える。自分もちゃんと登ってきて、ゆっくりだけど見える景色も増えたのだと実感し、自分を認めてあげる時間にもなりました。ホリデーのあとは新しいスタートを切れた気がします」 2025年は移住して4年、起業して3年を迎える。後編は、起業当初に陥った「孤独」と移住4年目の展望について聞く。 週末北欧部chika 北欧好きをこじらせてしまった元会社員。大阪府出身。フィンランドが好き過ぎて13年以上通い続け、ディープな楽しみ方を味わいつくした自他ともに認めるフィンランドオタク。会社員のかたわらすし職人の修業を行い、2022年4月よりすし職人として移住の夢を叶えたが、職場の倒産により個人事業主に転身。こじらせライフをSNSアカウント『週末北欧部』にて配信中。著書に『北欧こじらせ日記』シリーズ(世界文化社)、『マイフィンランドルーティン100』(ワニブックス)、『かもめニッキ』『世界ともだち部』(講談社)などがある
プライムオンライン特集班