「料理とは、自分の人生そのもの」ーー主婦目線の「おいしい」をとことん信じる、栗原はるみの流儀
名前そのものが雑誌のタイトルになる料理家は、世界中でもそう多くはいないだろう。栗原はるみは、まさに日本を代表する料理家だ。30年以上、3世代にわたるファンから愛されるその理由は、「ごく普通の主婦」の目線を忘れない姿勢にある。夫に先立たれて一人になった今、喪失感をあやしながら、毎日明るく前向きに料理と向き合う。無数の人気レシピを生み出してきた自宅キッチンスタジオを訪ね、素顔の栗原はるみを取材した。(取材・文:山野井春絵/撮影:殿村誠士/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
理科の実験みたいに何十回も繰り返し試作をする
季節の花々と、爽やかな緑……栗原家の美しい中庭に面したキッチンは、まぶしいほど明るかった。いたるところに花器とインテリアグリーンがあしらわれ、春爛漫の趣だ。 シンプルなジーンズにノーメイクが、いつものスタイル。 栗原はるみは、自然な笑顔で迎え入れてくれた。 「どうぞ、まずは召し上がって。おなかはすいている?」 挨拶もそこそこに、朝焼いたばかりの「スパイスシフォンケーキ」を切り分けてくれる。専業主婦時代、ドイツ人宣教師から習ったというこのケーキは、栗原の名刺代わりだ。撮影の前には、必ずこうしてスタッフにお菓子をふるまう。
「最初の仕事はテレビ現場の裏方で、料理をつくっていたんですよ。若い人たちがご飯を食べずに空腹で仕事に来るから、このケーキをつくって持っていくようになったんです。いつか私も料理家になれたら、仕事の前にみんなにおやつを食べさせてあげようって考えてました。あれから40年、この作業は一度も休んでないんです」 栗原は、今月75歳になる。長く続けた雑誌を終え、一時は引退説もささやかれたが、本人はまだまだバイタリティーに満ちている。この日も、新雑誌の準備に追われていた。いつまでも第一線で取り組む、その原動力とは? 「ブレないこと、かな。自分が決めたことをやり続ける。私の仕事は、自分が『おいしい』と思う味を、数字で出すこと。その数字がブレたら、本は売れないと思ってる。みんな環境も調味料も違うと思うんだけど、それでも私のレシピで料理をつくって、8割くらいの人がおいしいと思わなかったら、本は売れないんです。だから、自分の『おいしい』をとことん信じて、その味をきちんと再現できるレシピになるまで、理科の実験みたいに何十回も繰り返し試作をする。毎日忙しいですよ!」