「リモートワークの体で、実際は出勤していた」――立ちはだかる「昭和おじさん」の壁、ある地方公務員の告白【#コロナとどう暮らす】
「3密対策会議」の事前会議が3密に
「2月にはダイヤモンド・プリンセス号の集団感染が発生するも、ウチの役所をはじめ、首都圏の自治体ではまだまだ危機感がなくて。都内の保健所には、毎日問い合わせが来ていたんです。都にはほとんど資料がなく、こちらにも降りてこない。保健所に至っては何もわからないまま、昼夜問わず電話が鳴り続けて、夜通し対応していました」 『3密を防ごう』という話が役所に降りてきたのは、3月になってからだった。 「昭和おじさんたちは、『じゃあ、3密の会議の前に、事前会議するか』って連日、いつもと変わらない密室での会議を強いてきました。感染にも敏感になっていた私たちは、『ヤバイよね』って言いつつも断れません。3密事前会議のスタートも18時半からだったりして、密室で残業ですよ。密室でマスクを外す昭和おじさんたちの飛沫を避けるべく必死でしたね」 事前会議は、密室残業の形で日に日に増えていった。加えて、コロナ禍で苦しむ事業者向けの補助金関連の仕事が上層部から怒涛のように降ってくる。2月から現在まで、安田さんは有休をほとんど取得できていない。 「連日の報道で都知事が、ソーシャルディスタンスとかステイホームとか、やたらと横文字を使ってましたから、さぞかし最新のリモートワークができているように見えたかもしれませんが、3密残業状態は、都庁も同じ状況だったんじゃないですかね。役所というのは、ほぼ同じシステム、ピラミッド組織ですから。末端にしわ寄せがくるんです」 郊外にある安田さんの自宅から職場までは、約1時間。複数の電車を乗り継いで通勤する。緊急事態宣言期間中も、安田さんは毎日欠かさず通勤した。 「いつもは押し合いへし合いの満員電車。それが、目に見えて乗客が減っていきました。まずは制服組、学生さんたちの姿がなくなって、車両に私ひとりとか、ザラにありましたね。たまに乗っている人を見ると、ああ、同業者かな、って」 緊急事態宣言の発令後は、地方自治体でもいよいよ職員の勤務態勢についての具体的な対策が話題に上るようになった。政府は地方自治体にも出勤7割減を求め、役所では毎月部門ごとに出勤抑制率の提出が課されることになる。しかし、多くの職員が、「リモートワークの体で、実際は出勤していた」と安田さんは言う。 「庁内LANでタイムカードを申請して、どれくらい出勤抑制できたかを報告するんですけど、暗黙のルールと言うんですかね、記録上はリモートしてることにして、いつものように出勤するわけです。上司の出勤抑制率達成のために、私たちがそうせざるを得ない。まあ、ブラック企業と同じやり方ですよね。一応、時差通勤の制度はありますが、頑固な一致団結主義のため活用することはない。これがわれわれの『オールドノーマル』なんですよ」