ものづくりで大事なのは、どうしたら売れるかではない? その答えを求めて『小泉誠のものづくりの方程式』を読んでみた!
この本には、デザインにとって大切なものは何かを知るヒントが隠されている!
デザインプロデューサーのジョー スズキ氏が、一冊の本から手仕事の素晴らしさとデザインの力を知ることができる良書を推薦。日本全国津々浦々の「つくり手」たちと「デザイナー」による喜びに満ちあふれたモノづくりのストーリーをまとめた書籍、『小泉誠のものづくりの方程式 素材×技術=デザイン30』には、デザインにとって大切なものは何かを知るヒントが隠されている。 【写真15枚】ジョースズキさんが推薦する良書『小泉誠のものづくりの方程式 』の詳しい写真はこちら ◆どうしたら売れるかではなく、どうしたら良いものになるか 小泉誠さん(1960年生まれ)は、住宅から箸置きまで、幅広く手掛ける人気のデザイナーだ。そんな人物の名前が前面に出た書籍タイトルから、ヒット商品を生み出すノウハウを紹介した本と思ったら大間違い。誠実なデザイナーが関わった、人間味溢れるものづくりの物語が30例紹介されている。 そもそも小泉さんが手掛けているのは、大企業による誰もが知る大量生産品ではない。それとは対極の、日本各地の技術力と働いている人たちの情熱がある小さなメーカーと、多くの仕事をしている。製品も、身の回りの長く使えるモノが中心。けっして流行のものではない。小泉さんの役割は、「デザインの力で素材や産地の魅力を引き出し、モノにも人にも働く場を与える」こと。大事なのは、「どうしたら売れるかではなく、どうしたら良いものになるか」、だ。 著者の長町美和子さんは、30のメーカー・地域を小泉さんと訪れ、モノが生まれた背景を紹介する。筆致はまるで夫婦漫才。楽しく軽やかだ。デザインの知識が全くなくても、どんどんと読み進んでしまう。そもそもこの本は、飛行機の機内誌に連載されていた記事をまとめて再編集したもの。デザイン好きを対象に書かれたものではない。登場する社長も、社名肩書無しの〇〇さんで、会話も人間的。その分彼らの熱量が伝わってくる。 そして何より小泉さんの人柄が魅力的だ。デザイナーといえば、才能のあるお洒落でスマートな人物を想像する人が多いだろう。しかし同書に登場する小泉誠さんは、カジュアルで温か。そして時折見せる、昔気質の職人さんのような一面も。一緒に働く人たちの人柄を、とても大切にしているのだ。良き人たちと出会わなければ、彼の「デザイナー魂」に火が点くことはない。小泉さんが、相手に「デザインでこの人たちの役に立ちたい」と思い、メーカーや職人さんが「小泉さんのために頑張っていいものをつくりたい」と考え、初めて誠実なモノが生まれるのだという。 時には、頼まれもしないのに、遠くのメーカー同士を引き合わせ、新しいモノを作り出すのも小泉さんらしいところ。そのうえ、築50年の民家を改装した自身のお店「こいずみ道具店」で、デザインした製品も販売もしている。作ることはできても、販売が苦手な小さな会社にとって、本当に有難い話だろう。 そんな小泉さんの作り出すデザインは、シンプルで温かさを感じる、使い勝手の良さそうなもの。村角創一さんのカメラがそうした製品だけでなく、工場や素材を情緒的に写している。だが、なんといっても、一番魅力的なのは小泉誠さんその人だ。今の時代に、こうした良心の塊のような人物が存在していたとは。一冊読み終えて、とても幸せな気持ちになった。 文=ジョー スズキ(デザインプロデューサー) ■小泉誠:1960年生まれ。家具デザイナー。現在は、日本全国のモノ作りの現場を駆け回り、地域との協業を続けている。 ■『小泉誠ものづくりの方程式 素材×技術=デザイン30』(エクスナレッジ社)2500円+税 文=長町美和子・写真=村角創一 エクスナレッジ社(2024年)
ENGINE編集部
【関連記事】
- この家は捻じれてる? それとも捻れてない? 答えは写真で! 施主と建築家は同級生 長い友情と交わした会話の数が生きた理想の家とは?
- こんなスタイリッシュな空間でお酒が飲めるのは驚きだ! 往年の形で蘇った世界的デザイナー倉俣史朗の伝説のバー「コンブレ」が、静岡の町で今なお営業されている理由とは?
- スペインの漁師がわざわざ気仙沼まで買いに来た「奇跡のジーンズ」 オイカワデニムがつくる世界で唯一の「メカジキジーンズ」とは?
- 「ししいわハウス軽井沢」で美食とワインを満喫! 坂茂が設計したブティック・ホテル
- 1日2組限定! 森のなかにある隠れ家的ブルワリー「98BEERs」で愉しむ大人の週末 ディフェンダー90で行くドライブ旅行 いい大人には、いいクルマといい旅が必要だ!【後篇】