伊藤比呂美「孫とパフェ」
最初の日は、予定通りにミスド。しかし母親カノコはランチがドーナツというのに抵抗があったようで、まずちゃんとしたものを食べてからということになり、汁そばとホットドッグを注文したところ、汁そばはOKだったが、ホットドッグは、うまそうなのに、孫はいやそうに顔をゆがめて一口かじって、残りはぐずぐず食べないのである。 これには心底むかついた。食べ物に対してその顔はなんだと思った。 孫というのは自分の子じゃない。カノコに全責任は任されておる。と思いつつ、つい、言わずにおられなかったのである。 ばば(あたしはこう呼ばれている。ばーばではない)と約束しよう。ふたつのこと。まず、せっかく日本に来たんだから、毎日ひとつ、新しい食べ物に挑戦する。いいね? おーけー。 食べ物をリスペクトする。食べたくなくてもへんな顔をしたりしない。いいね? おーけー。 すなおな子たちなんである。明るい顔でうなずきながら「おーけー」と言う。たぶん「はい」のかわりなんである。 その夜は、うちでから揚げを作ることにした。六年前に帰ってきてからこのかた、揚げ物はやってない。だからまずオイルポットを買ってきた。それからカノコのために刺身。人参の卵とじ。小松菜のお浸し。それから天ぷらは、きす、えび、かぼちゃに茄子。えびと玉葱のかき揚げ。ま、子どもらが手をつけないのは想定内だ。
しかしから揚げ。みりんと砂糖としょうゆと酒と卵をよく揉み込んで、片栗粉でぱふぱふにして、全部揚がったところで、油を足して高温にして二度揚げするのである。よくできた。そしてよく食べてくれた。 翌日は丸亀かウエストでうどんを食べて、それからロイヤルホストでパフェと思っていたところ、遠出して遅くなり、みんなおなかぺこぺこになって、とにかく近いところでと考えたときに通りかかったのがくら寿司だ。「回転寿司、こないだニューヨークで入ったっ、ここならおいなりさんがあるし、私も楽しいっ」と回転寿司のめったにないところに長年住んでるカノコが叫ぶので、入ったのであるが、いや、思いがけず大成功だった。 まず流れてくる。それを取る。狩りみたいなものである。しかもパネルがある。なんと英語に切り替わる。つまりゲームと同じである。それでレーン側に座った子どもらがパネルの操作も一手に引き受けることになった。今日の挑戦メニューは卵のお寿司。後はいなり、うどんにから揚げ、またいなり。 うに好きのカノコが頼んだうには、しょぼかった。うなぎ好きのあたしが頼んだうなぎは、うまかった。 また行きたいと、子どもらがしきりに言うので、次の日阿蘇に行った帰りにスシロー。挑戦メニューはおしんこ巻。後はいなり、うどんにいなり、またいなり。 昨日と同じじゃないのと言ったら、弟のカズが言った。 「昨日の店にはから揚げがあった。この店にはから揚げがないが、パフェがある」 たしかに。あたしの夢想したすごいパフェじゃなかったけど、パフェはパフェだ。孫とパフェ、たしかに食べた。
伊藤比呂美