伊藤比呂美「孫とパフェ」
詩人の伊藤比呂美さんによる『婦人公論』の連載「猫婆犬婆(ねこばばあ いぬばばあ)」。伊藤さんが熊本で犬3匹(クレイマー、チトー、ニコ)、猫2匹(メイ、テイラー)と暮らす日常を綴ります。今回は「孫とパフェ」。お孫さんの初来日で起きた出来事とは――(画=一ノ関圭) * * * * * * * 孫たちの襲来である。初来日である。 どうなるかと思っていたのだった。なにしろ彼らは、ものすごい偏食である。そもそもアメリカの子どもたちは、たいていおそろしい偏食である。理解できないくらい偏食である。なんにも食べない。でも食べないと死んじゃうわけで、死なないくらいには食べている。その結果、ひとつのものしか食べない。炭水化物しか食べない。手の込んだものは食べない。ジャンクフードしか食べない。アメリカ文化に蔓延する流行りヤマイかもしれないとあたしは考えていた。 これでよく育つなと思って見ていたが、偏食の子どもたちがまあふつうに育って、他のものを食べるようになるのを見届けたので、孫についても心配はしてない。 流行りヤマイの原因はわからないが、親が子どもの意思を尊重して、親の強権を発動しないことにあるんじゃないかと思わぬでもない。娘のカノコも、実に理解のある、子の意見によく耳を傾ける親なのである。
親の強権発動──る、しつける、それが昂じてひどいことになってるのを見聞きしてきた。自分でもなるべく親性を笠に着て価値観を押しつけることはすまいと思ってきた。でも今どきの親たちよりはずっとやってきたと思う。食べ物に関しては特に。「お行儀」と「もったいない」を乱発したものだ。 うちの孫たち、アイダ11歳、カズ9歳は、日本食に関して言えば、そばとうどんは「かけ」なら食べる。おいなりさんも食べる。このごろから揚げを食べるようになってくれたという。 だからあたしは考えた。 丸亀とウエスト(九州のうどんチェーン)とさんうどん(これも九州のうどんチェーン)。それからミスド(ドーナツはアメリカ人ならみんな食べる)、ロイヤルホスト。 ロイヤルホストなんてふだんは行かない。でもこないだ友人と行ってパフェを食べた。それがすごかった。なんとモミジと栗と柿が載ってたのである。父と食べたチョコレートパフェは忘れられない。今、孫といっしょにパフェを食べたら楽しかろうと何度もシミュレーションしながら考えた。 しかしながら、そんな計画はすべて机上の空論であったのだったったっ。