きっかけは1人の大学生の死だった Jリーグサポーターに広がる交通安全の輪
「カモちゃん」と呼ばれ、愛されたサッカーJ1京都サンガFCのサポーターがいた。京都市山科区の大阪府立大生、中本大貴[ひろき]さん。4年生だった2014年7月13日、天皇杯の応援で鳥取県のスタジアムに向かう車に同乗し、事故で亡くなった。22歳だった。 【生前の写真】サポーターに声をかける中本さん
サンガのサポーター連合会は「大事な人を失う交通事故を減らしたい」と、翌年からオリジナルステッカーを作り、安全運転を呼びかける取り組み「かたつむり大作戦!」を始めた。スタジアムでの配布や、SNSなどで地道な周知を続けて約10年。他のJクラブのサポーターも趣旨に賛同し、全国に活動の輪が広がっている。
KBS京都でかつて放送された交通安全キャンペーン番組から名称を発想した。最初に考案したステッカーは、芝生をイメージした緑を背景色とし、殻がボールになったかたつむりのイラストを配した。裏面には、運転手は無理をしない▽同乗者は無理をさせない▽後部座席もシートベルトを締める-の3箇条とともに、「愛するクラブの勝利を願うように、あなたが無事に帰ることを願う人がいます」との文言を添えた。当時サポ連前事務局長だった市野雅樹さん(54)は「ほんまに悲しいんですよ、仲間を失うのは。『交通安全=かたつむり大作戦』ぐらいになってほしいとの思いだった」と振り返る。
北海道から九州まで
当時のホームスタジアムの西京極陸上競技場(京都市右京区)でステッカーを無料配布したり、SNSや口コミで周知したりした。また他クラブのサポーターにも依頼し、北海道から九州まで全国でステッカーを配った。チームカラーに合わせた特注版も依頼されたこともあるという。中本さんが顔が広いことも相まって、協力者も増えていった。
勝ち負けより大事なものはある
ジェフ千葉を20年以上応援する豊川亮太さん(39)=千葉市=は、中本さんと生前から交流があり、自身の店にステッカーを置いている。「同じサッカーファミリー。カモちゃんを忘れないことも、悲しい思いをさせないという京都サポーターの思いも含め、僕らも継続して賛同していきたい」と語る。大分トリニータのサポーター団体代表の久恒翔吾さん(32)=大分市=は中本さんと同級生。ステッカーを貼ったワゴン車で仲間と遠征し、出発時には「『みんなご安全に』と言うルールを決めてます」。大分のホーム戦でもステッカーを配布し、今年8月の天皇杯4回戦サンガ-大分戦でも配ったという。「仲間を悲しませない。勝ち負けよりも大事なものは絶対あるので」と言う。
サポーターは今も公共交通機関だけでなく、乗り合いで時間を合わせて行くケースが一定ある。サポ連の山内宣人事務局長(42)は「無理をして不幸が起きないように、サポーター文化とともに、安全に遠征することも伝えていきたい」と継続を意識する。