「本当の復興」を目指して 宮古の遊覧船・うみねこ丸の船出と厳しかった父の奮闘 #知り続ける
復活した遊覧船 大役を任された父
遊覧船の再開を望む市民や関係者の熱い思いによって資金が集められ、わずか1年半後の2022年7月、遊覧船は宮古・うみねこ丸として復活した。その運営という大役を任されることにプレッシャーはないのか。こう尋ねると、父は「会社が決めたこと。任されたからには淡々とこなすだけ」と言い切った。「うみねこ丸は市の所有だから、いかに市民と連携していけるかが重要になる。飲食業や漁業を営む人とも連携して市民一体となって運営していきたい」。そう意気込む父が頼りにしているのは、宮古営業所で30年以上培った人脈だ。 就航1年目の2022年夏は、多くの乗船客でにぎわった。今後の課題は、冬の閑散期をどうしのぐかだ。スキー場などのレジャー施設がない宮古から、冬場はどうしても客足は遠のいてしまう。
冬の集客を改善すべく、父が11月から2カ月間で企画したツアーは多岐にわたる。国の補助事業を使った無料のモニターツアーだ。宮古市の漁場を見学できる海人クルーズ、宮古市の人気スイーツ店のスイーツを乗船しながら楽しめるスイーツクルーズなど、宮古の資源を余すことなく巡り尽くす内容だ(モニターツアーの実施は全て終了)。その全てのツアーの企画、交渉、準備、実施を父がほぼ一手に引き受け、朝から晩まで実施に向けて街中を駆け回った。「こういう企画にすればうみねこ丸だけでなく、地域の事業者の宣伝にもなる」と父はもくろむ。うみねこ丸だけでなく、地域のさらなる発展を目指す。 鮭(さけ)まつりや真鱈(まだら)まつり、毛蟹(けがに)まつりなど発着場近くの魚市場で開かれるイベントとの提携も進めている。2023年1月の真鱈まつりでは、父の発案で乗船客に無料でタラ汁が振る舞われた。そうした努力が実を結んでか、冬場にしては多くの乗船客が訪れた。不器用にタラ汁をよそっていた父の顔にも安堵の表情が浮かんでいた。 「陸中丸のときは通常のルートの運航がほとんどで、こうして市のイベントに絡めたり、企画ツアーなどをしたりはしてこなかった。でも、やはりそれには限界がある。うみねこ丸は宮古市の持ち物でもあるから、積極的に市とも連携して官民一体となることが大事。宮古の人が『自分たちの船なんだ』と思ってもらえるように皆さんと手をとって運営していきたい」と父は話す。