「人間は幸せにならないようにできている」―自分の好きなように生きる清水ミチコが大切にすること
ガムのように噛み続ける「人間は幸せにならないようにできている」という言葉
――今の清水さんが「自分が好きなことをやる」という思いを持つようになったきっかけを教えてください。 清水ミチコ: 20代前半の頃、「なんで自分ばっかり面白くないのかな、ついていないのかな」とか「バイトでせっかく貯めたお金が全部歯医者代に消える。これからもこんな人生の繰り返しなのかな」と思って、人生がつまらないと感じている時期があったんです。 その時、バイト先の尊敬する女性の先輩が「最近元気ないけど、どうした?」って聞いてくれたので、自分の気持ちを打ち明けました。「頑張れば明日はやってくる」とか前向きなことを言ってくれるのかと思ったら「いや、人間は幸せにならないようにできているのよ。だから、頑張るとか頑張らないとかじゃなくて、淡々と受け止めないといけない。良いことがあったら喜べばいい」と言われたんです。目からうろこでしたね。 今も、天変地異とかコロナとかいろいろ大変ですけど、おいしいコーヒーを飲んだりする時間があることをありがたいと感じるべきなんだと思います。そうやって私は、いまだに20代のときに言われた言葉を、ガムのように噛み続けているんです。長く続いているガムですけど。
あきらめる力も大事。自分がやりやすいものを探すことの大切さ
――清水さんはどうやって自分のやりたいことを見つけているのですか? 清水ミチコ: 自分にとってやりやすいものを探すことが大事だと思いますね。その方が自分が楽だし、見ている人も楽だとこの年になって分かりました。 輪に入れなくて嫌な思いをしながらも「とりあえず3年間やってみなよ」とか言われて、しんどい思いをしている人もいると思いますが、やっぱり“あきらめる力”って大きい気がします。そこで一生懸命頑張って、自分にとって本当にプラスになるのか、人の目にプラスになるだけじゃないかとか、そこはよく考えた方がいいと思いますね。 日本社会には「挫折するのは良くないこと」という思い込みがありますけど、「自分に合わないことならあきらめて、他のことを頑張って」の方が本当は親切だと思うんです。よく分かっていないうちに大学に行って、分からないうちに就職しないといけないんだから、本当は夢なんて分からないものなんじゃないかと。 ――清水さん自身はどのようなことをあきらめてきましたか? 清水ミチコ: たくさんありますね。自分ではすごく面白いネタだと思っても、ライブでシーンとしてしまったときとかは頑張らないであきらめて次に行きます。 以前、死に物狂いで「オペラ銭形平次」っていうネタを作ったんですけど、いざやってみたら地獄でした。ネタをやっている私も地獄だし、お客さんも困惑していて本当に申し訳ないと思いましたね。スタッフは私が一生懸命にやっていたから「あんまり面白くないですよ」って言いにくかったらしくて。「自分の努力をあまり美化しちゃいけないんだな」って心から思いました。 ――年を重ねると、うまくいかないこととの向き合い方も変わるものなのでしょうか? 清水ミチコ: 年を取った方が、あきらめが早いし、あきらめが早い方がうまくいったりします。体質みたいなものなので、合っていない水を飲もうとしても難しいですよね。 昔は恥ずかしいくらい、合っていない水を頑張って飲もうとしていましたね。バラエティ番組とかで大人数で掛け合うような場に入って行くことがすごく苦手なんです。自分を誤魔化しながら対応していたら、どんどん疲れてきて「これはやっぱり違うな」と思ったことがありました。実はひな壇番組みたいなテレビ芸は海外にはなくて、何事も「輪」になってやることが好きな日本で生まれた独自のものらしいです。 考えてみたら、部活は卓球部だったし、昔から個人プレーが好きで、団体で何かをやることがすごく下手だったんですよね。長年やっている武道館コンサートも、いろんな人と一緒にやる年があったんですけど、すごくもの足りない。自分一人で立ちたいの(笑)。自分一人でステージに立っていたときの方が楽しい一夜だったって思っちゃうんですよね。輪をつくるのも下手で、3人でいっぱいかな。日常も常に3人だし、海外旅行に行くのも3人。4人以上だと私には輪がデカすぎるかも。 以前、黒柳徹子さんとご一緒した時に「それなら、しょうがないじゃない」ってしょっちゅう言ってて、ものすごくあきらめの早い人だと思いました。そういう人の方がうまくいくのかも。「じゃあ次!」って、どんどんシフトしていったら人生が楽そうだと思いましたね。 昔は「あきらめた方がいいよ」は口にしちゃいけない言葉で、世代的にもあきらめちゃいけないというのが自分の中に呪いのようにあった。でも、力を抜いた方が自分が生きやすいし、社会に貢献できることもあるということが分かったので、今はいろいろと力が抜けています。