日本の同族企業が好業績である理由はエージェンシー理論で説明できる
■同族企業における「所有と経営の一致」 この興味深い結果はある程度エージェンシー理論で説明できる、と筆者は考える。まず、同族企業は創業家が大株主なので、創業家から経営者が出るということは「所有と経営の一致」を意味する。株式会社制度の基本は「所有と経営の分離」だが、逆に言えば、それによってモラルハザードが起きる。他方、同族企業は主要株主(プリンシパル)と経営者(エージェント)が一枚岩で、両者がビジョンを共有しているので「目的の不一致」がない。 ここで図表2に戻っていただきたい。同族企業では、この両者の溝がきれいに埋まることがわかるだろう。まず、日本企業の問題の一つは、リスク回避的な内部昇進のプロパー社長が、大胆な戦略を打てないことだった。しかし、同族企業の経営者はプリンシパルである創業家と一枚岩で、同じビジョンを持ち、しかも創業家出身なので大胆な戦略を打っても解任リスクが小さい。したがって経営者がリスク回避的でなくなり、大胆な戦略が打ちやすい。 さらに言えば、創業家には企業を自身の「家族」と重ねる人も多い。そうであれば企業(=家族)に期待することは短期的な株価上昇だけではなく、長い目で見た永続的な繁栄になる(※7)。したがって、同族企業の経営者は創業家(プリンシパル)に支えられ、ブレのない戦略を打てるのだ。 もちろん、同族企業にはネガティブな面もある。とりわけ深刻なのは、創業家から選ばれる経営者の能力が高いとは限らないことだ。社内外にもっと優秀な人材がいるのに、創業家出身という理由だけで登用されては企業にマイナスだ。 しかし、婿養子ならこの問題も解消できる。婿養子には時間をかけて企業の外部・内部から選び抜かれた人が迎えられるので、資質の劣る人材を経営陣に登用するリスクは小さい。しかも経営者候補が婿養子として創業家に入ることは、創業家出身者と同様に婿養子の目線が創業家(プリンシパル)と一体になるということだ。したがって、やはりプリンシパル(主要株主の創業家)とエージェント(経営者)の「目的の不一致」が解消され、婿養子経営者はブレのない戦略が打ちやすい。