日本人クリエイターが見た、米国デジタルトレンドの“リアル”
グローバル化が進むインタラクティブ市場で求められるものは
望月さんは、SXSWの会場で得た手ごたえとして、「全く新しい斬新な技術やアイデアに対して許容する文化があるものの、そのままだとなかなか理解されにくい。その技術やアイデアをどのように活用するかというプレゼンテーションと結びついて初めて評価されるのではないかと思います。中でも、古くからある価値や誰もが知っているような身近なことが斬新なアイデアや技術で味付けされると、新しい感動を生み出すのではないかと感じます」と説明。3つのプロジェクトを例に取ると、「POSTIE」は手書きの手紙を送るという手法を、「Smilfie Pod」は記念写真を撮るという文化を、「Talkable Vegetables」は野菜のトレーサビリティという手法を、インタラクティブによって新たな体験として生み出した点がポイントだといいます。既に世の中あるものに新しい技術やアイデアと組み合わさることによってその価値や体験の質が変わったり、場合によっては既に廃れてしまったようなものも蘇らせたりする可能性を秘めているのです。 加えて、グローバル化が進むインタラクティブの世界では、直感的なわかりやすさも評価を獲得するために不可欠であると、望月さんは付け加えます。「グローバル化が進む世界だからこそ、言語、文化、リテラシーの壁を超えた体験を生み出さなければなりません。良いか悪いかは別として、私たち人間はテクノロジーの進化によって様々なことを面倒に感じるようになり、製品からは取扱説明書がなくなりました。もはや、誰にでもわかりやすいものでなければ、触ってもらうことさえままならない世界になったのです。取扱説明でさえ体験の中に組み込み、UI(使いやすさ)、UX(体験の面白さ)、アウトプット(生み出される感動)をトータルでデザインすることが重要になってくるのではないでしょうか」(望月さん)。
“斬新さ”だけでは評価されない、シビアな米国のインタラクティブ市場
望月さんのこうした意見は、SXSWにおける参加者の評価の眼差しの厳しさにも通じる部分があります。私たちのイメージだと、米国のインタラクティブ市場では今までにない斬新なアイデア、クールなデザインや体験、面白い発想であれば高い評価を受けることができると思いがちですが、実際には相当冷静な目でそれぞれのアイデアを評価しているといいます。 この点について、望月さんは「SXSWの参加者の間で出展者を評価する際に語られているのは、“どれだけスケール(普及拡大)するのか”ということ。つまり、そのアイデアが生活を大きく変革させることができるか、市場のプレイヤーチェンジを生み出すかということだ。生み出されたクリエイティブが多くの人に評価され、イノベーションになるかどうかが問われているのです」と語ります。つまり、クリエイターは、クリエイティブのアイデアを形にすると同時に、ビジネスの視点で製品やサービスを設計しなければ、米国市場で存在感を生み出すことは難しいのです。 「この点が、製品を生み出してから市場を構築しようとする日本のアプローチとは大きく異なります。斬新でクールなアイデアに見えても、その背景で考えていることは実際にはかなり現実的。米国のインタラクティブ市場は、ただ“斬新なこと”では周囲を巻き込めません。“いかにして世に送り出したときに受け入れられるか”という点で、綿密なサービスの設計とスケールするための戦略を考えて勝負しており、日本が考えている以上にシビアな世界なのです」(望月さん)。