小泉今日子「今の芸能界で起きていることは起こるべくして起きた」自身が実感した芸能界の変な構造
SNSで発信する理由「自分が発信することで気持ちが楽になる人もいる」
――小泉さんは、社会問題に関してSNSなどで発信をされることも多いですよね。発信に対する社会の反応で、どんなことが印象的でしたか。 小泉今日子: 以前、学生がデモを起こしていたときに、デモに関するツイートにいいねをしたら、それだけで記者が家に来ました。朝、家を出ようとしたら雑誌社の人が待っていて「なぜいいねしたんですか?」って。ツイートにいいねしただけでこんなことが起こるんだって、びっくりしました。 そのあとも何度か同じようなことはありました。舞台だと、公演が終わったら劇場から出てくるのがわかっているじゃないですか。帰りにお腹が空いて、スーパーのあるビルの駐車場に車を停めたら、追い越してきた車が停まって、記者が降りてこちらに走ってくるんです。それで、「何々政権についてどう思っているんですか」「なぜあのハッシュタグを付けたんですか」とか。ほかにも、ある1つの事柄に対して発言したときに、「そっちの話はするのに、この話題にはだんまりなんですね」なんて言われたこともあります。 私は1人の人間として思ったことを言っただけなんですけど、「小泉今日子がこう言っていた」というのをどうして記事にしたがるんだろうって思います。何々党がバックにいるんじゃないか、この党から出馬するんじゃないか、といった記事が出ることもあって、全然そういうつもりではないんですけどね。 今、世界中でいろんなことが起こっているから、みんなきっと不安に感じることが多いと思うんです。だから、いろんな人がどうにか自分を保とうといろんなことを言ったり、行動したりしているんだろうな、と思うようにしています。 ――社会問題について発信することについて、小泉さんはどう考えていますか。 小泉今日子: 「歌手やタレントが政治的発言をするな」みたいに言われることもよくあるけど、国民の1人として普通のことなんじゃないかなって思うんです。人前に出る仕事をしているから、いろいろ言われるのはある程度仕方ないけれど、思うところはあります。 でも、途中でなんかもういいやって思ったんです。言われてもいいやって。やっぱり反応の数でいったら、応援してくれる人の声の方が多く届くんです。私が言ったことに対して、「すごく気持ちが楽になった」とか「私も同じ気持ちで1人じゃないんだと思えた」といったメッセージをくれる人がたくさんいて。言いたいことが言えなくてモヤモヤしている人たちが、私の発言でちょっとでもスカッとするなら、私はそっちを見ようと思って。そうすると、発言するときもちょっと勇気が出ますよね。誰なのかもわからない批判の声よりも、「1人の人間として私はこう思った」という言葉の方が信じられる。私はそういう人たちと向き合いたいと思っています。 歌手や俳優として、多くの人々に少しでも感動してもらったり、ファンの人たちと一緒に楽しい時間を過ごしたりというのが、私の仕事だと思っているし、それをやりたい。そして、そこには、私がどう生きるか、どんなことを発言するかは、必ずついて回ると思います。 たとえば、歌でいうと、曲や歌声はもちろん重要だけど、歌っている人の生き方や人間性に魅力を感じてついていくのかなと思うんです。実際自分も、その人の言葉や人間性も含めて、この歌が素敵だな、好きだなと感じることが多いですから。だから私も、1人の人間としての自分の姿を見せていきたいし、そうあるべきだと思っています。 ----- 小泉今日子 1966年、神奈川県出身。歌手、俳優。1981年オーディション番組「スター誕生!」でグランプリを獲得し、翌年歌手デビュー。「なんてったってアイドル」「学園天国」「あなたに会えてよかった」など数々のヒットを放つ。また、俳優としてドラマや映画、舞台などで活躍するほか、執筆家としても活動する。2015年に制作会社「明後日」を立ち上げ、プロデューサーとして舞台制作などを手がける。 文:中村英里 (この動画記事は、TBSラジオ「荻上チキ・Session」とYahoo! JAPANが共同で制作しました)