総質量が太陽の280億倍もあるブラックホール連星 ある問題解決への糸口となるかも?
■「4C+37.11」のブラックホール連星は非常に大規模と判明
ファイナルパーセク問題を解決するには、合体直前の超大質量ブラックホールを発見して、その環境を詳しく観察する必要があります。 Surti氏らの研究チームは、ハワイのマウナ・ケア山頂に設置されたジェミニ北望遠鏡の観測データアーカイブを分析し、活動的な銀河「4C+37.11」にある超大質量ブラックホールについての分析を行いました。4C+37.11は今回の研究以前から注目されており、2006年には超大質量ブラックホールの距離がわずか約24光年 (7.3パーセク) と、非常に接近していることが明らかにされています。 Surti氏らは、ジェミニ北望遠鏡に設置された分光器「GMOS(ジェミニ多天体分光器)」の観測データを分析し、4C+37.11の中心部にある超大質量ブラックホールの質量の計算を行いました。銀河から地球に届いた光を波長ごとに詳しく分析すれば、中心部にある恒星の運動速度を測定して、そこから中心部にあるブラックホール連星の総質量を決定することができます。 その結果、4C+37.11の超大質量ブラックホールの連星は、合計質量が太陽の約280億倍であると計算されました。この値は、知られているものとしては最大規模のブラックホール連星の1つです。お互いの距離が24光年と非常に近いことも考慮すると、4C+37.11のブラックホール連星は極めて注目に値します。
■4C+37.11はファイナルパーセク問題を解決する糸口
いくつかのブラックホール連星は、4C+37.11よりも近い距離で互いに公転していると推定されていますが、これらは観測によって証明されていないため、4C+37.11は事実上の最小距離かつ最大規模のブラックホール連星となります。また、連星の規模が大きいことから、4C+37.11は既に何回か合体を経験していると推定されます。即ち、4C+37.11はかつて複数の銀河が集合していた “銀河団の化石” であると見なすことができます。 4C+37.11のブラックホール連星は、少なくとも30億年間にわたって距離が縮まっていないと推定されています。この後もずっと停滞したままなのか、それとも数百万年後(天文学的には一瞬で)に合体するのかは分かっていません。4C+37.11が “銀河団の化石” であることを考慮すると、物質の追加による動的摩擦の再開は期待できそうにありません (※)。 Surti氏らは、4C+37.11の中心部の様子を追加で観測し、ガスなどの物質がどの程度存在しているのかを調査することを予定しています。4C+37.11のより詳細な環境が分かれば、ブラックホール連星が合体しうるかどうかを突き止めたり、ファイナルパーセク問題を克服したりする上で重要な手掛かりが得られるかもしれません。 ※…ファイナルパーセク問題の解決案として、別の超大質量ブラックホールやガスなどの物質が追加されて動的摩擦が再開するというプロセスが提唱されています。しかし、このようなプロセスは銀河同士の合体で生じるものですが、4C+37.11は既に銀河同士の合体が完了して孤立しているため、そのような出来事は期待できません。 Source Tirth Surti, et al. “The Central Kinematics and Black Hole Mass of 4C+37.11”. (The Astrophysical Journal) Roger Romani & Josie Fenske. “Astronomers Measure Heaviest Black Hole Pair Ever Found”. (NOIRLab)
彩恵りり