「男とか女とか言ってられない」担い手不足が変えた伝統芸能の「女人禁制」 タブー視されなくなっても…獅子舞演じた女性が抱く違和感と願い
女性の獅子舞奉納「一昔前はなかった」
みっともないところは見せられない。めったに舞えない、特別な場所―。9月中旬、長野市の善光寺大勧進。獅子舞を奉納した同市七瀬中町太々神楽(だいだいかぐら)保存会の小林弓恵さん(57)は練習を振り返りながら、懸命に獅子頭を振った。 【写真】獅子舞の奉納後、訪れた人と笑顔で言葉を交わす小林さん 小林さんがこの舞台に立ったのは、昨年に続き2度目。「一昔前はなかった」。大勧進の栢木寛照貫主(かやきかんしょうかんす)(78)は感慨深げに語った。記憶では、大勧進で女性が舞ったのは昨年の同保存会が初めてだ。
「男だとか女だとか言ってられない」
昨年はたまたま舞い手が体調を崩したため、代役として獅子舞のほろに入ることに。栢木貫主から「喜ばしい」と声をかけられたが、頭の中は自身の舞への反省でいっぱいだった。今年、奉納後の小林さんの表情は晴れやかだった。 かつて女性が舞うのはタブーとされてきた地域の獅子舞が変わりつつあるのは、ここ10年ほどという。一緒に舞った同保存会長の若山正則さん(76)は「獅子頭をやる人を育てなきゃ。男だとか女だとか言ってられない」。
130年以上の歴史、減る大人の参加者
七瀬中町のすぐ近くの鶴賀緑町で生まれ育った小林さん。当時、地区にも獅子舞はあった。18歳で進学を機に上京し、気が付いた時には獅子舞は途絶えていた。10年後、Uターンして地元で再就職。七瀬中町に住み始め、娘が生まれた。 その娘が「友達がやっている神楽をやりたい」と言い出し、七瀬中町に獅子舞が残っていることに気付いた。10年ほど前に保存会に入会し、主に笛の演奏を担ってきた。 七瀬中町の獅子舞と神楽は少なくとも130年以上の歴史がある。町内の秋祭りや長野マラソン、ながの獅子舞フェスティバルなどのイベントに出演したり、他の町から依頼されたり。ただ、最近は子どものみならず、大人の参加者も減っている。
担い手不足に危機感
若山さんも小林さんも、次の担い手がいないことに危機感を抱く。約10年前に会長に就いた若山さんは、以前は認められていなかった女性も獅子舞に参加できるようにした。「獅子舞には神事的な意味合いがあり、封建的で女人禁制だった」。妻の典子さん(74)も、女性が獅子舞を舞うことをタブー視する風潮について「昔はそう思い込まされていた」と言う。