脳がいかにいい加減かを証明する「インビジブル・ゴリラ」って何だ?【科学が証明!ストレス解消法】
【科学が証明!ストレス解消法】#195 さまざまな機能を持つ人間の脳ですが、実は“いい加減”なところがあります。科学の進歩によって、脳の認知についての研究は、ここ数十年で加速度的に進んでいますが、その結果分かってきたのは、「人間が物事をきちんと見るのは難しい」ということです。 「動かない時間」が増えるほど疲労が残る…脳や心身に悪影響 例えば、同じ現象を前にしたとき、正反対のことを思う人が一定数います。Aだと思った人は、「なんでAだと思わないの?」と不思議に思うかもしれません。しかし、正反対のことを思った人に判断や考え方に問題があったわけではありません。たまたま、「目の前の出来事が見えなくなった」ことで、正反対に感じてしまったに過ぎないのです。 脳がいかにいい加減であるかを実証したハーバード大学のチャブリスとシモンズが行った「インビジブル・ゴリラ」と呼ばれる有名な実験(1999年)があります。この実験では、被験者にある動画を見てもらいます。 その内容は、白いTシャツと黒いTシャツを着た男女がバスケットボールをパスし合う動画で、冒頭に「白いTシャツの人が何回パスを回すか数えてください」という文字が登場します。 しかし、この実験の狙いはパスの回数を数えることではありませんでした。この動画には、白と黒のTシャツを着た人以外にも、「ゴリラの着ぐるみを着た人」が登場するのですが、それに気づくことができるか--というのが本題だったのです。 興味深いことに、ゴリラは隠れているわけではなく堂々と登場しているのですが、白いTシャツのパスの回数を数えることに集中したことで、被験者の約半数がゴリラに気が付かないという結果が明らかになったといいます。 すでにネタバレではありますが、YouTubeで「Invisible Gorilla」と検索すると「selective attention test」という動画が出てくるので、興味がある方はチェックしてみるといいでしょう。 このように、脳はときにいい加減な判断をしてしまいます。先の「インビジブル・ゴリラ」のような現象を「選択的注意」と呼び、人間の注意力は非常に選択的であり、一定のものに注意を向けさせると、違うものに対しての注意は適当になってしまうことが示唆されているのです。 1953年に、イギリスの認知心理学者エドワード・コリン・チェリーによって提唱された「カクテルパーティー効果」も「選択的注意」の一例です。「カクテルパーティー効果」は、騒がしい環境の中でも、自分にとって重要な情報や興味のある話を選択的に聞き取ることができる人間の認知能力を指します。 空港や駅などのターミナルで、自分が乗る便に対する情報は過敏とも言えるほど注意を向けてしまうのに、そのほかの便に関してはまるで理解していないなどは最たる例です。 裏を返せば、ゲームなどに夢中になっていると情報をスルーしてしまうのも、「選択的注意」による影響です。 都合よく解釈するのも、肝心なものを見逃してしまうのも、脳のいい加減さによるものと言えるのです。 (堀田秀吾/明治大学教授、言語学者)