WHOの命名から6日後に研究成果を公表!「ミュー株」神速論文の舞台裏【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】
■泥沼にはまった「ラムダ株」 われわれG2P-Japanもその例に漏れず、ラムダ株の研究を開始する。しかし、実験結果があまり判然としない。これといった特徴がないのである。VOIに分類されるほどの株であるのだから、なにかしらコレという特徴があるはずであるが、それがどうにも見つからない。それはいったいなぜか? 着眼点がよくないのか? 他の切り口はないのか? ...と、別の切り口から検証できることがないかをいろいろ考える中で、ふとあることを思い出した。 2020年春の新型コロナの最初の研究で連携したことがある、パウル・カルデナス(Paul Cardenas)という研究者がたしか、エクアドルにいたはずだ(38話に登場)。事前情報によれば、ラムダ株は、エクアドルを含めた南米の国々で流行拡大しているという。エクアドルにいる彼ならば、研究の役に立つ何かを持っているのではないかと思い、およそ1年ぶりに、パウルにメールを送ってみた。いろいろと相談する中で、ラムダ株に感染した人の検体提供を頼んでみることにした。 しかし、エクアドルから臨床検体を輸出するためのハードルは想像以上に高く、エクアドル政府からその承認を得るために、いろいろな書類を集めるハメになった。たとえば、「東京大学が国立の教育機関であることを証明する書類」を要求されたり(ちなみにこれは、文科省に事情を説明して、証明書を作ってもらうことができた)。 これらの事務手続きにかなり時間と手間を取られてしまい、ラムダ株のプロジェクトは、泥沼に脚がはまったように身動きがとれなくなってしまう。 この頃にはまだ、「カーリングとボッチャの切り替え」という発想がなかった。「急いだ方が良いが、科学論文にはインパクトも必要。そのためには、多少なりとも腰を据えることもやむを得ない――」。そういう、カーリングともボッチャともつかない曖昧なスタンスで進めてしまったラムダ株の研究は、結局コレというパンチに欠けたまま時間だけが過ぎてしまい、論文としての「旬」を逃してしまった。 もちろん最終的には、ひとつの論文として研究成果をまとめることはできた。しかし、G2P-Japanの処女作の研究対象となったイプシロン株(6話)や、ラムダ株とほぼ同時に研究を開始して、トップジャーナルである『ネイチャー』に発表したデルタ株の研究のインパクトに比べると、それらの影に霞む形となってしまった。
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