3年前「辞退」の悔しさ、みんなで晴らす! 「任せろっ」二刀流のナイキが流れ引き寄せた、宮崎商6度目夏甲子園【高校野球】
◆第106回全国高校野球選手権宮崎大会決勝 宮崎商4―3富島(26日・ひなたサンマリンスタジアム宮崎) いろんな人たちの思いが詰まった優勝だった。宮崎商が富島との1点差の接戦を制し3年ぶり6度目の甲子園出場を決めた。「気持ちが少しうちの方が上回ったのかなと思います。本当によくやってくれました」。橋口光朗監督は接戦の緊迫感に耐え9回に勝ち越しを決めた選手たちをたたえた。 ■【写真】優勝を決め、マウンド上に集まる宮崎商の選手たち 5回に1点を勝ち越したがすぐに追いつかれた。相手に向かいそうな流れを引き留めたのは背番号6の「守護神」中村奈一輝(ないき・3年)だ。同点とされ、なおも1死一、三塁で2番手の小野壮真(3年)に替わり、遊撃からマウンドに上がった。1死満塁となったが、次打者に二ゴロを打たせて三塁走者をアウトに取り、続く打者を右飛で打ち取り、無失点で切り抜けた。 投球練習もせずに登板した中村だったが「小野から『頼むぞ』と言われたら感動してしまった。任せろって言いました」。仲間からの言葉で火がつき、8回まで無安打投球を続けた。9回に2死から二塁打を打たれたが、最後は自ら捕った打球を一塁に送ってゲームセット。「一塁手が球を取った時、甲子園球場が見えました」と出場の実感が湧き上がった。 3年ぶり6度目の夏の甲子園出場を決め喜ぶ宮崎商の選手たち 走攻守三拍子そろったプロ注目の遊撃手だが、夏の大会は最速146キロをマークした速球を武器に初戦から全試合、抑えで登板した。実は状態は万全ではなかった。準々決勝の宮崎日大戦の後にぎっくり腰を発症。「朝、目を覚ましても起き上がれなかった」という状態だった。この日も痛み止めを飲んで試合に臨んだ。「直球の感じも良かったし変化球もしっかり投げられたので満足いく投球はできました」。腰の痛みを感じさせることなく、5回の攻撃では投ゴロに全力疾走し相手の失策を誘って得点につなげるなど投打で100%の力を出した。 絶対に勝たなければいけない強い思いがあった。3年前に出場した甲子園はチーム内に新型コロナウイルスの感染が拡大したため出場を辞退。大阪まで行きながら試合もできず、入院した選手もいた。「僕たちは3年前の先輩を見て宮商に入った世代。先輩は甲子園に行ったのに試合ができなかった。その借りを自分たちで返そうと思っています」と中村は意気込む。橋口監督は優勝が決まった瞬間、涙を浮かべた。「3年前は選手と一緒に悔しい思いをして、今までで一番つらい経験だった。でも今の選手は関係ない。背負わなくていいものまで背負ってしまった」。みんなで「甲子園に忘れ物を取りに行く」と言ってきた。先輩への思いが選手の力を引き出した。 目標は甲子園出場ではなく聖地で勝つことだ。「令和に入って宮崎代表は甲子園で勝っていないと聞いている。自分たちが勝ちたい」と中村は意気込む。「奈一輝」の名前は「世界で活躍できる人間になれ」という思いを込めて世界的なスポーツメーカーのブランドにちなんで名付けられた。次は宮崎を飛び出し、全国の大きな舞台に立つ。甲子園でも二刀流の働きで令和の一番星を挙げてみせる。 (前田泰子)
西日本新聞社