「学び直さなかったら後悔する」昼間の学校生活は新型コロナで崩れ去った… 公立夜間中学で出会った異国の友
▽阻まれた日本行き コロナの脅威が広がった3年前、牧山さんは当時住んでいたフィリピンの首都マニラで途方に暮れていた。春には日本人の父親が暮らす神奈川県に行き、先に海を渡ったフィリピン人の母や妹と新生活を始めるはずだった。だが、通っていた私立校は休校状態に。外出もままならなくなった。オンラインを使った授業が再開されても、「勉強にならない」「どうせ日本に行くのだからもったいない」と家族に反対され、受講は諦めた。 自宅にこもり、スマートフォンでゲームばかりしていた。でも、オンライン授業を受けたい気持ちは変わらなかった。現地の友人と同じ学年でいたかったからだ。自分だけ家でだらだらして、日本に渡るときを待っているだけ…。「後れを取りたくない」との思いが募り日本語を自習してみたが、漢字が難しくて投げ出した。結局学校に通えないまま、あっという間に1年近くが過ぎ去った。 おととし3月の日本渡航後も昼間の学校には通えなかった。語学力などが足りなかったこともある。まずは民間の外国人向け学習教室に通い、日本語や数学などを少しずつ学んだ。しばらくして、ボランティアの先生から、新設される大野南中学校分校を紹介されたのが転機となった。「やっと(公立の)中学に行ける」。そこでかけがえのない友人たちと出会うとは、当時つゆほども思わなかった。
▽初めてできた異国の友 2022年4月、中学3年に編入した牧山さんと中学1年から学び直した山浦さんは、大野南中分校の1期生となった。初年度は15~62歳の男女18人が入学。うち約6割が外国籍だった。不登校などで十分に学べなかった「形式卒業者」や、母国で義務教育相当の教育を受けられなかった外国人―。ゴールは高校進学とは限らず、通う目的もばらばらだ。それでも多様な価値観に触れることは意義深いとして、この夜間中学では日本語の習熟度や学年が違っても同じ教室で学んでいる。 山浦さんに出会った頃の印象を、牧山さんはこう語る。「優しそうで、静かっていうか、あんまり関わりたくない人なのかと思ってた。それで少しずつ私から話しかけた」。学校の最寄り駅で顔を合わせるたび、大好きなゲームやアニメなど趣味の話で盛り上がるように。山浦さんが新しいゲームの話をし出すと、聞き逃すまいと必死で耳をそばだてた。学校では漢字を教えてもらったり、逆に自分が英語を教えたり。「ほんと、スマホの翻訳機能いらなかった」と笑う。