母が包丁を持ち出して…貧困の女子高生が“夜の仕事”を踏みとどまれたわけ|漫画『東京のど真ん中で、生活保護JKだった話』
母親が包丁を持ち出すほどの大喧嘩
――お母さんとお兄さんの複雑な関係も印象的でした。 五十嵐:兄は、過干渉で理不尽な母の子育ての一番の被害者でした。兄はいわゆる“いい子”のまま育ってしまい、21歳のときに心を病んでしまったんです。普段の兄は思慮深くて優しく、理由もなく怒る人ではないんですが、引きこもってからは母との口論が日に日にエスカレート。母が包丁を持ち出すこともあって、いつか血を見るんじゃないか……と、ヒヤヒヤしていました。 最終的に兄は病院に入院させられてしまったのですが、私が学校に行っている最中に警察を呼んで兄を措置入院させる計画を立てていたと聞き、そのときも裏切られた気持ちになりましたね。
高校生で夜のバイトも考えた。区役所員の言葉が自立の後押しに
現在、兄は社会復帰を果たして結婚もしています。出版が決まった際にはとても応援してくれて、漫画制作にも協力してくれました。ただ、兄に対する批判も少なからずあったのは悲しかったです。私が楽観的でいられたのも、兄が守ってくれていたり、ふたり兄妹だから乗り越えられた面もあるので……。 ――そうした家庭の悩みを抱えながらも、学校生活や公務員試験の勉強に前向きに取り組めた理由とは? 五十嵐:友人たちや当時の彼氏、そして区役職員の柳さんの存在に支えられましたね。中学時代からの友人は、我が家の窮状を知っても変わらず接してくれて、今でも仲良しです。柳さんとは、地域ボランティアを介して知り合ったのですが、私が高校を卒業する際に、生活保護の「世帯分離(※)」について教えてくれて、家を出て自立するための後押しをしてくれた恩人でもあります。 本当に生活がギリギリになったとき、高校生では働けない夜の街で高時給のアルバイトをしようか迷いましたが、友だちや彼氏、柳さんの顔が浮かんで踏みとどまれました。 (※)家族との住民票を分けること。生活保護世帯の場合、独立した家族分の保護費が減額される。 ちなみに、高校時代の彼氏とは16年の交際を経て結婚し、今は夫になっています。彼には、付き合いはじめてすぐのタイミングで「うちは生活保護を受給している」と伝えましたね。