エビデンス未確立な治療法を議論しよう――わたしがGLP-1受容体作動薬のがん予防効果について話す理由
肥満と関連するがんにも期待
最近、医学界に衝撃を与えた研究が発表された。7月5日、米国のケースウェスタンリザーブ大学の研究チームが、『米国医師会誌(JAMA)ネットワークオープン』誌に発表したものだ。 彼らは、GLP-1受容体作動薬が処方された約160万人の15年間にわたる経過を解析した。 この研究では、以前から肥満との関連が指摘されていた13種のがんを対象としたが、10種のがんの発症が大幅に減少していた。例えば、GLP-1受容体作動薬以外の治療を受けたコントロール群と比較して、胆嚢がん、髄膜腫、膵臓がん、肝細胞がん、卵巣がんは、それぞれ65%、63%、59%、53%、48%発症するリスクが低下していた。これ以外にも、大腸がん、多発性骨髄腫、食道がん、子宮内膜がん、腎臓がんでは発症リスクの低下を確認した。 同様の研究結果は、別のグループからも報告されている。昨年11月、デンマークの研究グループが、欧州糖尿病学会が発行する『糖尿病学誌』に発表した研究では、GLP-1受容体作動薬を用いた患者で、前立腺がんのリスクが9%低下したことが確認されている。前立腺がんは加齢と共に急増する。つまり、高齢者ほどリスクが高い。70歳以上に限定して解析した場合、リスクは44%低下していたという。 いずれの研究も、蓄積されたデータを後から解析したものだ。様々なバイアスが影響しているだろう。 ただ、そのことを考慮しても、GLP-1受容体作動薬のがん予防効果を肯定的に捉える研究者が多い。それは、動物実験や細胞レベルの研究では、GLP-1受容体作動薬ががん細胞の増殖を抑制し、アポトーシス(細胞死)を促す可能性が示されているし、肥満ががんの危険因子であることは、医学的コンセンサスだからだ。 肥満症患者では、インスリンの効き目(感受性)が低下するため、インスリンやインスリン様成長因子―1(IGF-1)を過剰に作るようになる。このような物質は細胞増殖を促進し、がんのリスクを高める。また、肥満は、それ自体が、体内で炎症や酸化ストレスを生じさせ、これらが発がんリスクを高めることも知られている。GLP-1受容体作動薬による減量が、インスリンや関連物質、炎症などを抑制することで、発がんリスクを低下させてもおかしくはない。 もちろん、GLP-1受容体作動薬による減量は、通常の方法での減量とは違うため、GLP-1受容体作動薬を用いた減量が発がんリスクに影響しない可能性もある。この問題の解決は、臨床試験の積み重ねが必要だ。それには時間がかかるだろう。