異例の“公開ラブコール” J1昇格立役者の獲得を監督熱望…教え子が抱く本音【コラム】
恩師・秋葉監督のもとでJ1昇格の立役者に
敵味方が入りまじった大歓声で、すでにかすれていた沖の声がさらに届きにくくなった状況と、絶対に無失点に抑えると闘志を燃やす住吉の責任感が交錯したアクシデント。沖がファンブルしたボールをつながれ、相手選手に放たれたシュートは、ピンチを察知して飛び込んだDF原輝綺がブロックして事なきを得た。 試合後に沖と話し合い、問題点を確認した住吉は「あのときは僕もやばい、と思いました」とこう続けた。 「ただ、僕もその後にシュートに対してアタックにいっていたし、ゴールのカバーに入ってくれる味方もいた。あの状況でチャレンジするのは決して悪くないし、むしろああいう場面で前へ出てくるのは沖のいいところでもある。結果論ですけど失点しなかったし、あとはまた改善していけばいいと思っています」 今シーズンはここまで29試合に出場し、プレー時間の合計も2535分に達している。これまでの最多がルーキーイヤーの2020シーズンの27試合、1958分だった住吉は、J2リーグとはいえプロのキャリアで心身ともにもっとも濃密なシーズンを全力で駆け抜け、最初の目標だったJ1昇格を果たす原動力の一人になった。 「厳しい戦いが続いていたので、うれしいけどまだ実感がわかないというか、不思議な感じです」 初めて昇格の可能性が生まれた6日の水戸ホーリーホック戦で2点のビハインドから何とか引き分け、20日の前節では満員のホームでモンテディオ山形に逆転負けを喫した。3度目の正直でもぎ取った昇格に、思わず本音を漏らした住吉の清水への期限付き移籍契約は、来年1月末で満了を迎える。 「サッカーにおける成長とは周囲が評価するものだと思っているけど、一番わかりやすいのは結果。この順位にいることと、試合に出場し続けられていることで貢献はできていると思う。秋葉さんもよく言いますけど、特にこの緊張感というのは上に立つチームにしか味わえないものだと思っている。リーグ戦の残り2試合に勝てば、もうひとつの目標である優勝も決まるので、そこへ向かってみんなで頑張っていきたい」 同時間帯にファジアーノ岡山に敗れた横浜FCと入れ替わり、勝ち点2ポイント差をつけて首位に再浮上した清水は、早ければいわきFCと対戦する11月3日の次節に優勝も決まる。来シーズン以降の契約はクラブ間の話し合いに委ねられるなかで、栃木戦後に何度も「秋葉さん」と言及した、いまも恩師と慕う指揮官のもとで、住吉は加入時に誓った「熱く、激しく、魂を込めたプレー」の集大成を貪欲に追い求めていく。 [著者プロフィール] 藤江直人(ふじえ・なおと)/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。
(藤江直人 / Fujie Naoto)