中国をけん制? フィリピンと米国が新軍事協定を結ぶ狙いは
フィリピンと米国の利害の一致
外交的な手法や国際的な司法手続きが進まないなか、フィリピンは米国との軍事協力を再び強化する方針に転換。 一方、オバマ政権は2011年末、対テロ戦争からアジア地域に、戦略上の重点を移す「アジアシフト(リバランス)」の方針を発表。オバマ政権は「特定の国を念頭に置いていない」としていますが、その背景には中国への警戒感があるとみられます。今回のフィリピンと米国の新軍事協定は、両者の利害の一致によって生まれたのです。 ただし、この軍事協定の内容には、米軍駐留が含まれていません。これは、かつての記憶もあって、米軍の駐留に消極的な意見がフィリピン国内にあることだけでなく、中国を刺激しすぎることへのフィリピン、米国双方の警戒が反映されたものといえます。
南シナ海での緊張は今後どうなるか
5月5日、新軍事協定が締結されて初となる、フィリピン軍と米軍の定例合同演習が始まりました。開会式で、フィリピンのデルロサリオ外相は「現状変更を目的とした強引な行動は地域の平和と安定を脅かす」と強調。名指しは避けながらも、中国をけん制したのです。 これに対して、中国は「アジア太平洋地域の平和と安定のため、全ての関係国が建設的に取り組む必要がある」と強調しながらも、フィリピンをはじめ、南シナ海で中国と対立する各国を「米国が煽っている」と批判。米国の関与を拒む姿勢を鮮明にしています。 これらから、南シナ海では今後、緊張がさらに高まるものとみられるのです。 (国際政治学者・六辻彰二)