マイク・タイソン、19年ぶりのプロ復帰戦へ 58歳という年齢に神経学的な懸念
ダメージ
セティ氏が説明するように、ボクシングは「特異な」スポーツだ。対戦相手、特にその頭部にパンチを浴びせてKOするというスポーツのコンセプトゆえに、特殊な健康上の懸念が伴う。 リングドクターとしてリング上で選手の状態を診察することに慣れているセティ氏は、ボクシングの試合で脳振とうが頻繁に発生するのを目の当たりにしている。ボクサーが脳振とうの兆候を示すたびに、リングドクターが介入して試合を止めていたら、「全くボクシングにならない」と語る。 ただ、ボクシングというスポーツの真の危険性は、ファンを熱狂させる派手なKOのみに由来するわけではない。試合やトレーニング中に絶え間なく頭部への打撃が繰り返されることで、長期的な影響が生じる可能性もある。 「トレーニングやスパーリング、試合中に何度も頭部に打撃を受けることを仕事にしている人の場合、こうした頭部の損傷や衝撃が積み重なっていく」とセティ氏は指摘。「このため、ボクシングにおける慢性的な神経損傷について語るとき、個人的にはこちらの方が大きな問題だと感じている」 ただ、KOや明白な脳振とうの兆候が出ている場合とは異なり、蓄積した打撃の長期的な影響が表れるのは「もう選手にスポットライトが当たらなくなった時で、誰も気にかけない」とセティ氏は説明する。 ボクサーは引退から長年が経過した後に不眠や慢性的なめまい、慢性的な脳振とう後症状、慢性パーキンソン病の兆候、慢性外傷性脳症(CTE)などを発症するケースがある。 しかしセティ氏は、頭部への繰り返しの打撃がボクサーの脳に及ぼす影響についても同様に注目し、ボクサーを長期の神経学的問題から守る術を学ぶべきだと考えている。 しかも、神経学的な合併症のリスクは年齢とともに増す。 例えば、ニューヨーク州体育協会の医療基準マニュアルには、ボクサーを「ハイリスクの選手」に分類しうる要因が多数列挙されている。年齢が40歳を超えている場合、プロのキャリアを歩み出した後に1年以上のブランクがある場合などだ。 40歳を超えても闘い続けたボクサーは数多くいる。シュガー・レイ・ロビンソンやジョージ・フォアマン、イベンダー・ホリフィールド、ラリー・ホームズといったレジェンドはいずれも、この節目を過ぎた後もリングに上がった。 「40歳が区切りとして使われているのは、高齢の選手がリングやケージに上がる場合、負傷しやすいと懸念する声があるためだ。例えば、年老いた脳は若い脳に比べ、脳振とうへの対処が不得手になる」とセティ氏は説明する。 「二つの見方ができる。一つは、負傷する傾向がどの程度なのかという点。そして負傷した場合に、年齢そのものが回復の妨げになるかという点だ」 58歳という年齢でリングに上がり、2005年以降にプロでの試合を経験していないタイソンはこの両方のカテゴリーに該当する。