非核化に向けた米朝交渉の「本丸」はどこにあるのか?
金委員長の考えと北朝鮮メディアにもズレ
第2に、トランプ氏の周囲は、閣僚や補佐官など、トランプ氏と考えが違うところがあるのですが、自分たちの考えで発言し、それが報道されるので、トランプ政権全体の方針や考えがわかりにくくなっています。米国の以前の政権では、そのようなことがかりにあったとしても偶発的でしたが、今のトランプ政権においては常時そのような問題があるようです。つまり、トランプ大統領と周辺の発言は明確に区別して聞く必要があり、後者の発言は必ずしもトランプ氏の考えでありません。 第3に、北朝鮮においても、労働新聞や朝鮮中央通信など公式のメディアは必ずしも金委員長の考えを代弁していません。以前は公式の発表はすべて北朝鮮の指導者の考えとみなすことができましたが、最近は違ってきているのです。 例えば、またポンペオ長官の件ですが、同長官の3回目の訪朝の際(7月6~7日)、北のメディアは、米側の要求は過大だとし、「一方的でギャングのような非核化要求だった」と批判しました。しかし、金委員長はその時ポンペオ長官にトランプ大統領あての親書を託しました。トランプ氏はその内容を高く評価したのでよい内容だったのでしょう。ポンペオ長官の要求を「強盗のようだ」と批判することと、この書簡は明らかに矛盾していました。 つまり、北朝鮮の側においても、金委員長自身の行動や発言か、それとも周囲から出る声かを明確に区別しなければならない状況になっているのです。そうなった原因としては、軍や労働党内の保守派との確執も多かれ少なかれあるでしょうが、最大の原因は、核とミサイルに関する政策の変更が金委員長の下であまりにも急激に進められているからだと思います。 第4に、米朝両政府の考えには明らかに食い違いが生じています。具体的には、北朝鮮は行動対行動の原則を重視しているのに対し、米側にはそのような考えがないことです。 例えば、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が北朝鮮を訪問して金正恩委員長と9月19日に発表した「平壌共同宣言」には、「北側は米国が6・12米朝共同声明の精神に従い相応の措置をとれば寧辺(ニョンビョン)核施設の永久的廃棄のような追加措置をとる用意がある」との文言がありますが、同共同声明には「相互の信頼醸成が非核化を促進しうる」との記載はあっても、直接的に行動対行動の原則を述べている文言はありませんでした。