非核化に向けた米朝交渉の「本丸」はどこにあるのか?
どこに何発あり、いつどのように廃棄するか
以上の諸要因が重なり合った結果、米朝交渉の本丸はどこか、分かりにくくなっています。例えば、シンガポールでの首脳会談からしばらくは「CVID」、すなわち、「完全で、検証可能な、不可逆的な廃棄」に北朝鮮が応じないことが問題だと言われました。首脳会談後の共同声明にもCVIDが入っていないことが問題視されました。しかし、米朝交渉は、実際にはそんな言葉の問題よりはるか先に行っていました。 米側が重視したのは「非核化のリストと工程表」だという報道がその後続きました。この表現は完全な間違いではありませんが、交渉の肝には触れていませんでした。 米国が最も重視し、したがってまた、「強盗」と言われても北朝鮮に要求したのは、「全核施設の申告」であるという表現が最近出てくるようになりました。「すべての」と明記した点は評価できますが、これでも問題があります。なぜならば、この表現では肝心の核兵器が含まれないからです。 核兵器が何発、どこにあり、いつ、どのように廃棄するかは「非核化」の最大の課題であり、交渉の本丸はここにあるのです。検証にこれをすべてさらけ出すことは「非核化」の一丁目一番地です。つまり「すべての核兵器、核物質および核関連施設」を開示することが交渉の核心なのです。 寧辺核施設もミサイルの発射実験場も数百(千)に上る核関連施設の一部です。米側としては、そのような一部のことについて譲歩すべきでないし、そもそも交渉したくないと考えているのでしょう。 また、朝鮮戦争の「終結宣言」も米国は周辺的問題とみなしているでしょう。正式に「平和条約」で解決するのが筋だからであり、まず、「終戦宣言」ついで「平和条約」と2段構えにするのはまだるっこいばかりか、正式の「平和条約」を結ぶのがかえって遅くなると主張すると思います。なお、米側には、北朝鮮は早期に制裁を解除してほしいのでその宣言を利用しようとしているという見方もあります。 北朝鮮の「非核化」については以上のようなかく乱要因を乗り越えて前進することが必要です。トランプ大統領と金正恩委員長はそれらをトップ同士の決定によって解消するために会うのだと思います。 「非核化」は簡単でありません。本当に実現できるか、60%くらいの可能性かもしれませんが、第2回目の米朝首脳会談で、70%にも、あるいはさらに高いところまで押し上げられることを願っています。
-------------------------------------- ■美根慶樹(みね・よしき) 平和外交研究所代表。1968年外務省入省。中国関係、北朝鮮関係、国連、軍縮などの分野が多く、在ユーゴスラビア連邦大使、地球環境問題担当大使、アフガニスタン支援担当大使、軍縮代表部大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表などを務めた。2009年退官。2014年までキヤノングローバル戦略研究所研究主幹