4億円の赤字を全額負担…それでも経営者養成のプロが「音楽フェス」にこだわるわけ つてもノウハウもない「最後発」、ロッキン移転後の茨城で6万人を集めた戦略とは
新たなフェスの開催発表は2022年1月、ロッキンの移転が正式発表された直後だった。だが、LuckyFMに大規模音楽フェスの開催実績はない。堀さん自身も音楽業界とは無縁で、何から始めればいいかも分からない状態だった。 戸惑う会社の幹部を、堀さんは「損失が出たら全部僕がかぶる」と説得。連日、音楽業界の関係者に話を聞きに行き、全国のフェスにも足を運ぶようになった。 それでも、業界からは厳しい声を浴びた。通常、大規模フェスは1年以上かけて計画を練る。だが、今回残された開催までの期間は約半年。フェスを手がける大手のイベント会社20社ほどに声をかけたが門前払いされた。「できるわけがない。もう一年待ったらどうだ」。当然の反応だった。 ▽回り始めた歯車 そんな中、過去に音楽フェスを主催した経験がある番組パーソナリティーに掛け合い、運営に不可欠なイベント制作会社を紹介してもらった。 加えて、ロッキンで仮設トイレや電気・水道工事といった会場設備のノウハウを持った地元企業や、出店経験のある飲食店も協力的だった。ロッキンで名物となった、生産量全国一の茨城県産メロンの種部分をくりぬいて容器にした「メロンまるごとクリームソーダ」を販売する居酒屋経営井坂紀元さん(52)もその1人。「ロッキンのように育ってくれれば。培った経験を生かしたい」と温かい視線で話す。
歯車はなんとか回り始め、発表から半年後の2022年7月に第1回「ラッキーフェス」が国営ひたち海浜公園で開かれた。来場者からは「この先もフェスを続けてほしい」「ロッキンとはまた違った楽しさがある」といった声が届いた。 ▽「最後発」が狙うもの 堀さんは解説する。「僕らはフェスの最後発。邦楽ロック中心で、10~30代向けのロッキンなどのフェスと同じ客層を取りあっても勝てない。新規層や、普段はフェスに行かない層も含め、幅広く狙った」 いかに他のフェスと違ったものを提供できるか。そこにこだわった。 その意図が表れているのが出演アーティストだ。若者に人気のロックバンド「MAN WITH A MISSION」や、親世代にもファンが多い「ウルフルズ」、子どもの知名度が高い「新しい学校のリーダーズ」…。幅広い世代が楽しめるよう出演者を組んだ。ジャンルもアイドルやヒップホップやK―POPなど多様だ。