4億円の赤字を全額負担…それでも経営者養成のプロが「音楽フェス」にこだわるわけ つてもノウハウもない「最後発」、ロッキン移転後の茨城で6万人を集めた戦略とは
今年7月、茨城県ひたちなか市で音楽フェス「LuckyFes(ラッキーフェス)」が開かれた。今年で3回目のイベントの仕掛け人は、地元ラジオ局オーナーの堀義人さん(62)。 【写真】「3カ月あれば準備できる」知事の発言が炎上、実行委会長が県職員を平手打ち… 中止になったアニメイベント
堀さんは、経営学修士(MBA)プログラムを展開する「グロービス経営大学院」の学長でもある。だがフェス立ち上げを決めたとき、音楽業界とは無縁で、実績もつてもなかった。 周囲からは「不可能だ」といわれた挑戦。「損失が出たら全部僕がかぶる」―。実際、損失は億単位に上った。そうまでして、なぜ開催を続けるのか。背景には、2年前に国内最大級の音楽フェス「ロック・イン・ジャパン・フェスティバル(ロッキン)」が茨城から千葉に移転したことへの危機感があった。「フェスの灯を消すわけにはいかない」(共同通信=奥林優貴) ▽大いなるロッキンの残照 「大きなショックを受けた」。堀さんは、ロッキンの移転話を聞いた時のことをこう振り返る。堀さんがオーナーを務める、LuckyFM茨城放送(水戸市)は県内唯一の民放放送局で、2021年のロッキンに「共催」の立場で携わっていた。 ロッキンは2000年から長年、国営ひたち海浜公園(ひたちなか市)を会場とし、19年には5日間で33万人超が訪れた。会場近くで宿泊施設を営む男性は言う。「ロッキンの時には、市外も含めて周辺の宿泊施設は軒並み満室。ファンにとってこの町は第二の故郷のような存在だろう」。茨城県民にとっては「夏の風物詩」のようなイベントになっていた。
だが新型コロナウイルスの流行により20年から2年連続で中止に。21年の中止による周辺経済の損失は約11億円との試算もあった。感染対策の難しさや経営事情もあり、22年の年明けに、千葉市への移転が発表された。 ▽「何とかできるのは・・・」はまった地元愛 共催の立場でロッキンを支えていたLuckyFMのオーナーとして、堀さんは「何度も引き留めた。だが、相手の意思は固かった」と振り返る。 茨城県出身の堀さんは民間企業を経て、1992年に人材育成やベンチャー企業への投資事業を行う「グロービス」(東京)を設立。2006年にはグロービス経営大学院を開学し、経営者養成に携わる。 16年に地元のバスケットボールBリーグ1部「茨城ロボッツ」のオーナーに就任し、その後19年には「県の魅力発信を強化したい」とLuckyFMのオーナーになるなど、故郷への貢献にも熱心だ。 堀さんはロッキンにも足を運び、影響力の大きさを感じていた。そこに飛び込んできた移転の知らせ。「つないできた茨城のフェスの灯を、ここで消すわけにはいかない」。何とかできるのはLuckyFMだけだ。地元愛がかっちりはまった。 ▽音楽フェス、何から始めれば良い?