WONK × Jinmenusagi鼎談 バンドとラップで生み出すグルーヴ、「カオス」という主題
リズムのバリエーションと押韻の鋭さで知られるラッパー、JinmenusagiとWONKが共作したシングル「Here I Am」は、ダークなサイエンス・フィクションめいた楽曲だ。ドラマーの荒田洸(Dr)が舵を取って制作が進められたこの曲の「混沌=カオス」という主題は、制作の過程で立ち上がったという。Jinmenusagiのラップ/リリックもそのテーマを受けて書かれている。ピアノ、ストリングス、コーラスなどから成る1分あまりの荘厳なイントロダクションは、SFドラマ『ウエストワールド』のオープニングの音楽を想起させる。 【写真】WONK × Jinmenusagi 撮り下ろし(全3点) バンドとヒップホップのラッパーが組んで、どのようにお互いの力を最大限引き出し合うかというのはいまだ重要なテーマと言えよう。そうした音楽制作における具体的な技術論、Jinmenusagiのリリックに対する井上幹(Ba)の見解、また音楽におけるムーブメントとされるものへの考え方の変化など興味深い対話が展開された。Jinmenusagi、荒田、井上、三者へのインタビューをお送りしよう。
息をするようにラップする
―WONKとJinmenusagiさんの出会いから教えてもらえますか。 Jinmenusagi:Sweet Williamとのアルバム『la blanka』(2019年)をEPISTROPH(WONKのレーベル)から出したときにめちゃくちゃいっしょに仕事をしたんです。 荒田:リミックス(「energy equal (WONK Remix) feat. WONK」)もやらせていただきましたし。 Jinmenusagi:他にもプロモーションでラジオに出たり、Ginza Sony Parkさんでライブをやらせていただいたり。俺ひとりだと辿り着けない場所でのライブが多かったのでよくおぼえています。仕事をやるなかでWONKがどういう人たちかを見させてもらって。こんな文句のつけようのない人たちがいるんだなと。 荒田:嬉しいです(笑)。『la blanka』の曲を僕らが参加してライブでやるときに、完成されたものを壊さないようにいかにやるかというプレッシャーがすごかった。 井上:ヒップホップもバンドの音楽も好きな人間としては、ヒップホップの曲をバンドでやるのは取扱注意案件なんです。ヒップホップのトラックの良さは、それ自体で完結しているものだから。JinmenusagiとSweet Williamのコラボレーションの曲を聴いたときも、パッケージとして完璧だった。それをバンドで演奏する試みは面白いけれど、トラックの良さを100%活かしながら生演奏にするのはほぼ無理で。あのときも、ウィルくん(Sweet William)にトラックも流してもらって、我々ができるところを演奏した感じでした。 荒田:ライブで生楽器が入ると、音圧が出て、ライブ感がより出るのは良いですね。 ―ミュージシャンのお2人から見て、Jinmenusagiさんのラップの魅力や強みはどこにありますか? お2人はラッパーのISSUGIのライブ・セットへの参加の経験もありますよね。 荒田:Jinmenusagiののラップは生活っぽいんですよ。Electrik神社という、よく行く六本木のバーで外国のミュージシャンのジャム・セッションが起きるんですけど、そういうときに海外のミュージシャンは息をするように演奏する。「よっしゃ! かましたる!」っていう肩に力が入った感じじゃなくて。Jinmenusagiのラップはそれに近くて、息をするようにラップしていて、それが生活っぽいという意味です。 ―Jinmenusagiさんは、リズムの展開のキレ味が鋭く、技巧的にも突出した才能のあるラッパーだと思うのですが、そのリズムに関してはどうですか? 荒田:とんでもなく上手いと思います。レベチですね。 Jinmenusagi:WONKは肩の力を抜いて演奏することのできるエクスペリメンタル・ソウルバンドだと思いますけど、今回はどっしりしたダークな曲調で来たなと。しかもテーマが「混沌=カオス」ということで、ラップにも尺をかなり使ってもらっていたから、いかに疲れないように聴かせるかは考えました。リズムに関しても普段より裏で乗ることを意識しましたし。 荒田:特にコンセプトを決めずに作り始めた最初のデモ段階のものがちょっと生ぬるいなと感じて。それでどんどん刺々しさを出して行ったら、自然とダークで狂った感じのヒップホップっぽいトラックに仕上がって。そこでラッパーに頼みたいと考えたとき真っ先に思い浮かんだのがウサさんでした。他の候補とかは特にいなかったですね。 井上:この曲は荒田がほぼ全編作っていて、僕はベースも弾かず、ミックスとマスタリングだけやっています。荒田が「ウサさんに頼みたい」と言ったときはその通りだなと思った。ラッパーでもアーティストでも、じっさいの生活が破天荒でカオスを地で行く人はいると思うんです。でも僕らはそうじゃなくて、カオスを俯瞰して見ているタイプだし、この曲に合う表現ができるのもニヒルでクレバーなラッパーだと思ったから、バッチリ適任だなと。 ―リリックにはサイエンス・フィクションの要素もありますよね。 Jinmenusagi:ありのままに描写し過ぎるとあまりに殺伐として辛辣な感じでただただ暗くなってしまうから、自分の得意な世界観と混ぜないと落としどころがなかったんですよね。それで、みんなが頭のなかで想像できるような退廃的でサイバーチックな世界観を作ろうと考えて。 ―たとえば、WONKの4枚目のアルバム『EYES』にもサイエンス・フィクションめいた意匠やアイディアがありました。 井上:今回は宇宙をテーマにしたわけじゃないですけど、地上がカオスになると、そうじゃない場所を目指したくなるというのはありますよね。それはアフロ・フューチャリズムしかり。僕は『ブラック・ミラー』(SFドラマシリーズ)が大好きで。あのドラマシリーズは現在の問題をサイエンス・フィクションのエンタメにしているけど、じつはいまよりももっと悲しくて殺伐とした未来が待っている、と伝えていますよね。僕はそれをけっこう真に受けて深く絶望しちゃう(笑)。だから、この曲の歌詞からもそういうものを感じて。 井上:感覚的に作った自分のトラックにラップを入れてもらうことで気づかせてくれるものがありましたし、曲としてよりわかりやすくしてくれたと思います。