WONK × Jinmenusagi鼎談 バンドとラップで生み出すグルーヴ、「カオス」という主題
バンドとラップが生み出すグルーヴ
―インストのトラックにラップやボーカルが乗ってまったく別の曲になったときの感動ってありますよね。バンドの演奏やサウンドとラップを融合するときの面白さと難しさはどこにありますか? 井上:難しさだらけな気がします。生楽器では出せないヒップホップのトラックのグルーヴとその音を拾っていく過程で磨かれてきたラップの技術がありますから。僕は、いわゆる16ビートのファンクのトラックにラップが乗っているのが好みじゃなくて。 Jinmenusagi:ファンクにラップを乗せてカッコよく成立させるのはクソ難しい。 井上:そうじゃない形でラップが生きる音をバンドでいかにやるかがテーマですね。端的に言うと、ドラムをはじめとした楽器のリズムが先にあるバンドとしてではなく、打ち込みのトラックとラップがやったらどうなるか、という発想をスタートにしないと。荒田も基本、ドラムを叩きながら曲を作るわけではなくて、トラックが先の発想だと思う。トラックが先にあって、そのトラックのどこにドラムとか楽器を加えたらより良くなるかという作り方をしないとラップも上手くハマらないことが多いし、セッションで作るのはもってのほかですね。 荒田:セッションで作るのはマジで危険ですね。ただ「イエ~イ!」とノリだけで演奏して成り立つ世界じゃないから。 井上:しかも、音数がごちゃごちゃ入っていても成立しないことが多い。それぞれに役割のある楽器を足し算して作って行くと、役割があるからこそ、それで埋まってしまう。だから、曲を成立させるためには身を引かなきゃいけないこともあって、僕は今回ベースを弾いていない。荒田が作ってきたベースラインでトラックとして完成していたから、それでいいと思うし、バンドとしてベースがいないとだめだよね、みたいな話はしたくなくて。トラックが良ければ、楽器のベースはなくてもいいという判断もときには必要で。 荒田:今回の曲ではキーボードの(江﨑)文武もほぼいないですね。イントロと中間で演奏しているぐらいで。 Jinmenusagi:ラップのトラックは引き算が必要なので。だから、音楽の成立のさせ方が違う同士が相対したときに作り手の工夫がもろに伝わると思う。ヒップホップは基本、機械が出している音にしゃべりを乗せるものだから、歌詞とメロディの合わせ技ではない。パンチラインとリズムの雑音の音楽じゃないですか、ヒップホップは。そういうところまで考えてくれる人と曲を作れるのであれば、最高ですね。今回は、そういう細部まで考えている人同士で作れた。俺はバンドの音にラップを乗せるの、日本で一番上手いと思います。 荒田:おおおぁぁ! Jinmenusagi:この曲は本当に良いのでみんなに本当に聴いてほしいですね。ただただ上手いラップを乗せればいいってわけじゃないっていう問題もまたありますから。 ―その話を聞くと、今年出たDJ KRUSHさんとの「破魔矢 -Hamaya-」の方はラップの上手さをとことん見せつけるスタイルだったなと思い出しました。 Jinmenusagi:「云/鬼 呼 生 - たま よび いく」(2022年。DJ KRUSH『道 -STORY-』収録)っていう志人さんとKRUSHさんがやった曲があったじゃないですか。あれを聴いたときにほんと日本人で良かったわあって思いまして(笑)。最高!って。ああいう曲が世に出たあとに自分がKRUSHさんと曲ができるというのは日本人のラッパーとしてすごいことなのでは、と舞い上がってしまって。これは文字数で表現するしかないと一生懸命リリックを詰めて書いて。ただ、後半からのヤバい構成とブレイクは俺がラップを乗せたあとに、KRUSHさんが展開を作ってくれたものです。俺の詰めたラップをさらに活かす構成に手直ししてくれて完成に至っています。だから、今回のWONKのお仕事とは物事の伝え方が違うので、たしかにこの両曲を引き合いに出すと面白いと思います。 ―「Here I Am」はより物語性がありますね。 Jinmenusagi:そうですね。カオスをテーマにして、歌詞のなかにみんなが共通認識しやすい悪役、悪しきものを作って。たとえば、ヴォルデモート(『ハリー・ポッター』に登場する悪役)とかですね。あと、ナチュラン・デモントはホラー映画の『死霊のはらわた』に出てくる呪文で。悪魔の力が封印されている呪われた本の封印を解いて全員呪われてぶっ殺されるんですけど、その封印を解く言葉がナチュラン・デモントなんです。成功とか名誉とかと引き換えに魂を売るようなことをみんな気づかずにやっているけど、それは悪魔を呼び出すぐらいヤバいことだよと。そんなに深く読み込んで聴く人がいるかわからないですけど、自分はそういうことを考えて書きましたね。 ―「暴力的コンテンツ」とか、いまけっこう多くの人が聞いてピンとくる単語もあったりしますね。