WONK × Jinmenusagi鼎談 バンドとラップで生み出すグルーヴ、「カオス」という主題
ムーブメント無き時代の音楽
荒田:ところで、歌詞を書くとき、ここは16で刻もうとか、こっちは32で刻もうとか考えるんですか? Jinmenusagi:えっと、まず入りと終わり、起と結だけ考えるんですよ。で、ワンヴァースの承と転の部分はもらったトラックを聴きながら出てきた言葉やリズムをハメていく作業です。リズムの正解を2、3個叩き出して、ここは3連符で行こうとか、サビに行く前はいちばんおいしい感じで終わろうとか、そうやって作りますね。 荒田:頭のなかでリズム・パターンをいくつか出して当てはめていく感じですか? Jinmenusagi:曲の展開によっては、音が増えたり減ったりするじゃないですか。そういう曲の展開のあるところでフロウを切り替えたりしてやると、聴いている人がビートやトラックの展開が耳に入って来やすいじゃないですか。そういう風にビートが活きる書き方をしますね。だから僕はビートがないとリリックを書けない人なんですよ。メモは日頃からしていて、単語や固有名詞はそこから抜くけど、曲は必ずトラックやビートを聴いて書きます。だから、プラモデルを作るみたいにリリックを書いて、曲を作って行きますね、 ―歌詞に関して井上さんはどうでした? 井上:クレバーですよね。最近の日本のヒップホップの「リアル・サグライフ」のラップは自分にとっては隔絶された文化というか関係ない世界ではあるんです。さっきの歌詞の話につながりますけど、そういう「暴力的コンテンツ」は何かを楽しむときのとっかかりでしかなくて、より面白いのはその構造を見ることだと思う。そういう意味でウサさんの歌詞には色んなカルチャーが入ってくるし、人の人生や営みが単純なものではないことが汲み取れるリリックになっていて素晴らしいと思いますね。 荒田:含みがありますよね。すべてを説明し切っていないし、想像をリリックの外の世界に広げられるから面白い。 井上:抽象的という意味でフワッとした要素はあるけど、そこに聞き覚えのある単語が散りばめられているからとっかかりもあるし。自分のリアルは歌っているけど、リリックの内容はそれだけじゃない。ストーリーの中にリアルも虚構もあるから何層にも楽しめる。 ―ところで、いま3人が海外でも日本でも夢中になったり気になったりしている音楽やアート、触発される音楽のムーブメントはありますか? 井上:僕は音楽のムーブメントへの関心が年々薄れていますね。先駆者がいてそこにフォロワーがいて、ワーッと塊になって起こるムーブメント自体が違うんじゃないかと思い始めていて。色んな人の個々の表現が点在しているのが、今後の未来じゃないかと。1人の才能ある人物が大量のリスナーやフォロワーを抱えて引き連れていくのではなく、点在した色んな才能や音楽を雑食的に聴いていくような。だからジャンルでもないと思うし。今回の曲もそうですけど、イントロがクソ長いし、弦楽器も録音して、ドラムはあるけど、生のベースはない。「ジャンルは何?」と訊かれたら、僕はヒップホップではないと思うけど、他のジャンル名でも答えようがない。そういう音楽がたくさんある未来の方が僕は面白いと思う。 ―それは近年、考え方に変化があったということですか? 井上:そうですね。僕らはやっぱりロバート・グラスパー世代だったとは思うんです。その周辺ミュージシャンもめちゃくちゃ聴いていましたし、僕らがデビューしたころぐらいから、たとえばハイエイタス・カイヨーテみたいなフューチャー・ソウルと呼ばれるバンドも出てきた。そういうのはたしかにいちムーブメントだったと思います。ただ、昔のムーブメントと違って、フォロワーとリーダーがいたかと言うと、そうじゃなくて、みんながいろんなジャンルを聴いていて、それが一時的に混ざってできた音楽の現象だった気がしていて。そうやって混ざり切ったあとは離散して点々となって行くんじゃないかなと。 荒田:現状そうなってきているしね。 井上:どんなジャンルと訊かれても、簡単に答えられないバンドが増えたし。 Jinmenusagi:それはラップの世界も一緒ですよ。いま僕はアジア人特有の音楽の作り方やリズム、メロディに関心があって、今後はそこをもっと研ぎ澄ませていきたい。たとえば中国、韓国、日本では作る曲のテンションがそれぞれ違うし、そこが面白くて。シティ・ポップがリバイバルしたり、YMOが再評価されたり、海外の人がイメージする日本やアジアの音楽と、日本に住む自分らが聴き馴染みのある音楽の相性の良いところを導き出したい。海外に出しても面白いし、自国でも人気のあるものを作れたら最高だなと。あとから考えて、Jinmenusagiは日本人でしかできないことをやっていたと認知してもらえたらいいなと。そういうビジョンは、WONKとやれたからこそ見えてきたものでもありますね。 --- WONK, Jinmenusagi 「Here I Am」 配信中 EPISTROPH presents WONK x cero』 日時:2024年8月12日(月・祝) 会場:Zepp Shinjuku (TOKYO) 出演:WONK(※ゲスト:Jinmenusagi)、cero
Rolling Stone Japan 編集部