フロント係がトイレ掃除までこなす激務 仕事中は立ち詰めで腰痛が深刻化【65歳アルバイトの現実】
【65歳アルバイトの現実】#30 ホテルのフロントマン編 ◇ ◇ ◇ 内藤徹さん(仮名=67)は、大学卒業後サービス業で働き、定年後の雇用延長を終えて2年前、埼玉県内のビジネスホテルでバイトを始めた。勤務は週に2回。深夜のフロントマンだ。 【初回】第二の人生に選んだ「ラブホ清掃員」は体力勝負 厳しさに来なくなる人も… 拘束時間は午後3時から翌朝10時までの19時間。そのうち3時間は仮眠休憩のため実働16時間だ。時給1400円で合計2万2400円になる。 「1回の勤務で普通の仕事の2日分を稼げるから割のいいバイト」と内藤さんは満足している。 ただ、問題があった。このホテルには文書化された業務マニュアルがない。そのため4人いる男性社員の指導がバラバラなのだ。 「たとえば予約客の情報を用紙に書く作業。ある社員は『備考欄は赤ペンで書け』と言い、他の社員は『赤ペンはダメだ。黒インクで書け』と指導する。パソコンの入力方法もしかり。4人が4人、てんでんバラバラのことを要求するのです」 4人は内藤さんより年下の30~40代。プライドが傷ついたが我慢していた。しかし、あるときリーダー格の社員から「あんた、何度言ったら分かるの」と叱責されて我慢の限界に達した。内藤さんは「教え方がバラバラのこの会社が悪い。マニュアルを統一してくれ!」と一喝。他業種ではどのような指導法を取っているのかをこんこんと説教した。相手はそのけんまくに圧倒され、以来文句を言わなくなった。 「こういうときに年長者の貫禄が発揮されるのです。4人の社員はこのホテルしか知らない。一方、私は複数の企業で管理職を経験した。サービス業のベテランという風格を見せつけることが重要です」 マニュアル問題は決着したものの、もうひとつ内藤さんを苦しめるものがある。トイレの掃除だ。客室の清掃は専門の女性スタッフが担当しているが、館内の共同トイレの清掃員はいない。その作業がのしかかってくる。 「コロナの蔓延以来、中堅ホテルが抱える共通の問題です。経営改革の名目で清掃員を減らしたため、フロント係が便所掃除をやることになった。夏場はネクタイを外し、汗だくになって便器を磨きます。便より厄介なのが酔っぱらいのゲロ。便器の外にぶちまけていることが多いのです」 仕事中ずっと立ちづめなのもこたえる。背筋を伸ばして立ち、腰を60度に折ってお辞儀をする。カウンターの下から書類を取り出す。こうした動作のせいで腰痛が深刻化。勤務が終わるたびに40分3000円のマッサージを受けている。 「30代、40代の社員も『腰が痛い』と嘆いています。腰痛はフロントマンの宿命のようです」 ホテルマンというと、心配なのが言葉の問題だ。英語がしゃべれないと務まらないだろうと思ってしまう。内藤さんも英語が苦手。外国人客から話しかけられたらどうしようと不安だったが……。 「実は大丈夫。スマホのおかげで言葉の壁がないんです。中国や東南アジアのお客はグーグルの翻訳機能を使い、スマホで会話してくる。画面に表示されるのはすべて日本語。『チェックアウトは何時?』という質問にはメモ用紙に『10am』と書いて回答すればいい」 とはいえ米国やヨーロッパの客は英語で話しかけてくる。彼らはホテルマンが英語を話すのは当然と考えているからだ。 「言葉が聞き取れない場合はメモ用紙に英文を書いてもらい、筆談でコミュニケーションします。不思議なことに、2年やってると言葉が聞き取れて簡単な英語を返せるようになってきた。日本人相手の仕事一筋だった自分が外国人としゃべっていることがうれしいです」 バイトのおかげで思わぬ御利益にあずかったわけだ。 (林山翔平)