黒死病でも活躍、「ワインの窓」がますます広がる、イタリアのフィレンツェで人気上昇
コロナ禍で感染対策として再注目、よみがえる約500年の歴史
イタリア中部の都市フィレンツェの石畳の道を散策すると、このロマンチックなルネサンスの街の美しさや歴史にたちどころに魅了され、あらゆるものに心を奪われる。サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂の荘厳なたたずまい。ミケランジェロ作の見事なダビデ像。アルノ川にかかる、絵のように美しいベッキオ橋。そして、キャンティ・クラシコやティニャネロなど、トスカーナのビンテージワインが提供される、建物の壁に開けられた趣のある小さな穴「ワインの窓」(buchette del vino、「ワインの小さな穴」の意)だ。 ギャラリー:歴史ある「ワインの窓」コレクション 写真9点 「ワインの窓」は、500年近くもの間フィレンツェの文化の一端を担ってきた。この小さな窓を通してワインを販売する伝統は、20世紀にはほとんど廃れてしまったが、近年、新型コロナウイルスのパンデミックを機に復活した。また、イタリア系米国人俳優が食べ物やワインを通して自身の文化的ルーツ探しをする番組もきっかけになった。
ワインの窓が復活
ルネサンス歴史家でツアーガイドのロッキー・ルッジェーロ氏はこう語る。「(ワインの窓の流行が)長続きするとは思っていませんでした。コロナ禍での一時的な流行だろうと思っていましたが、ここ数年でますます広がる一方です。なんといっても、スタンリー・トゥッチの『Searching for Italy』シリーズのおかげですね。実に面白いです」 同テレビシリーズでは、俳優のトゥッチ氏が、フィレンツェの「ババエ(Babae)レストラン」の壁にある小さな穴からワインを受け取って試飲する様子が放送された。このレストランは2020年、新型コロナの感染拡大を防ぐ策として、「ワインの窓」の習慣を復活させた店のひとつだ。 今では、トスカーナワインやおいしい料理を求めて、復活した「ワインの窓」の前には大勢の人が列をなしている。こうしたワインの窓は、「カンティーナ・デ・プッチ(Cantina de’ Pucci)」、「オステリア・ベッレ・ドンネ(Osteria Belle Donne)」「ディヴィン・ボッコーネ(DiVin Boccone)」「ガストロノミア・ドゥオーモ(Gastronomia Duomo)」といった店にもある。 「現在、街にはワインの窓が新たに10カ所ほどオープンして、グラスワインや料理、エスプレッソ、それにジェラートも売られています」と語るのは、公認ツアーガイドのコリンナ・カラーラ氏だ。氏は、フィレンツェで再発見された昔からある約200カ所のワインの窓へ、ワイン通の客を案内している。 今ではワインは社交やくつろぎのために飲まれているが、ルネサンスの時代は、健康な生活を送る上で欠かせないものだった。カラーラ氏によれば、当時のフィレンツェは水の汚染がひどく、飲むと病気のもとだったため、ワインを飲まなければならなかったのだという。 「ワインは昔、必需品でした。水を飲んだら死刑宣告を受けたも同然でしたから」