パリ移民地区「バンリュー」、社会統合の努力が越えられずにいる「価値」の壁
移民が多く暮らすパリの「郊外(=バンリュー)」クリシー・ス・ボアのアパート(2023年11月27日、筆者撮影)
昨年(2023年)6月、移民系(移民のルーツを持ちながらフランス国籍を得ている人も多いが以下、移民とのみ記す)の若者たちによる大規模な暴動が起きたパリ近郊ナンテール。11月にナンテールや、同じ「バンリュー」=banlieue(大都市の郊外)である移民地区クリシー・ス・ボワ、サン・ドニを歩き、社会の分断が進む状況を実感した。 まずはナンテールを目指し、パリ中心部から地下鉄1番線に乗って西方に向かう。終点のラ・デファンス駅で降り、出口の階段を上がると眼前にグランダルシュの巨大建物が飛び込んできた。新凱旋門とも言われる、1989年に竣工した斬新な超高層ビルだ。吹き抜けの空間から東方を望むと、はるか向こうにパリ市内の凱旋門が望める。周りを見渡せば再開発された近代的な高層ビルが立ち並んでいる。移民の若者による暴動が起きた世界とはとても思えない。少し離れたところに貧しい移民地区が広がっているのだろうか。 暴動のきっかけとなった、警察官による移民の青年の射殺事件は、6月27日朝、このナンテールが属するオー・ド・セーヌ県の県庁の近くで起きた。17歳のアルジェリア系青年ナエル(Nahel)さんが検問で停止命令に従わず車を発進させたので、警察官が発砲した。
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三好範英