世界最古記録 40億2千万年前の岩石が語りかける太古の地球の姿
化石研究の立場において、変成岩や火成岩の中に太古の生物の跡―いわゆる化石―が見つかることはまずほとんどない。高温のマグマは生物の体を一瞬のうちに焼き尽くすことだろう。変成岩の形成プロセスはオリジナルの堆積岩や火成岩などの特徴をすっかり変えてしまうことも多い。(これでは生物の跡など残るはずもない)。生物の記録を探るなら堆積岩だ。うまい具合に死体や足跡などが堆積によって埋もれれば、化石として保存される可能性が高まる。 閑話休題。少し前Nature Geoscienceという学術雑誌に40億2千万年前(冥王代:地球誕生から40億年前)と推定されている世界最古記録の岩石の研究が発表された。 Reiming, J.R., et al. (2016) “No evidence for Hadean continental crust within Earth’s oldest evolved rock unit”. Nature Geoscience; DOI: 10.1038/ngeo2786 この岩石は片麻岩(へんまがん:Gneiss)という変成岩の一つだ。(石英や雲母といった鉱物が主成分でよく色違いの層状の構造をもつ変成岩として知られている)。サンプルはカナダ北部の北極海に面したノースウエスト準州のアカスタ川(The Acasta River)付近からから発見されたので、「アカスタ片麻岩(Acasta Gneiss)」と地質学者から呼ばれている。ほぼ同時代の岩石の存在がカナダ北東部のケベック州、そしてオーストラリア西部からも確認されているようだ。(それより古い岩石もいくつか知られているが、隕石など地球外のものと考えられている)。
カナダのアルバート大学の研究チームがさまざまな化学分析を行った結果、このアカスタ片麻岩は、たくさんの鉄分やマグネシウムといった鉱物を含んだ「太古の地殻」から形成・変成された岩石という結論が下された。こうした鉄分などをたっぷり含んだ火成岩は、今日、海の底における「海洋プレート」においてよく知られている。しかしアカスタ片麻岩は、冥王代後期、「海洋プレートのような地殻」に属していたと推定されている(現在見られるような大陸プレートの存在は確認されていない)。どうも地球が46億年前に誕生してからしばらくの間、地殻やマントルなど地球の断層面の構造は、現在のものとはかなり異なる仕組みになっていたようだ。 今日の地質学の教科書をひも解くと、大小さまざま15枚の海洋および大陸プレートが地球の表面を覆っている図が見られる。こうしたプレートはゆっくりと、しかし常時移動しているため、時に衝突を起こす(それが地震や津波の大きな原因になる)。地球の誕生後こうしたプレートの起源は、果たしていつなのだろうか? プレートを変動させるメカニズムはいつ頃からはじまったのだろうか? とりあえず今回の研究は40.2億年前に「プレートのような地殻が存在した」ことを示している。 そして冥王代の岩石の情報は生命の起源を探る上でも当然重要だろう。現在知られている最古の生物化石は(以前の記事「最古の生物記録ストロマトライト」でも紹介したように)、38億年前という記録が知られている。最古の地球の岩石と比べて、その差はわずかに2.2億年しかない。生物の化石は、岩石の中にしか見つからない条件を顧みると、もしかして生物は冥王代において、すでに誕生していた可能性はないだろうか? ただその証拠となる(化石を含んだ可能性のある)岩石がないだけなのかもしれない。更なる太古の岩石の発見と研究が待たれる。