月の深部は「柘榴石」すなわちガーネットが豊富? 実験的測定で判明
■困難な実験的測定で柘榴石の豊富さを証明!
Wood氏やGréaux氏などの研究チームは、この難題を解決するための実験を行いました。まず、月の下部マントルを構成していると推定される「橄欖石・輝石・柘榴石」の組み合わせを再現した金属酸化物の混合物を用意し、これを高圧にかけます。これには愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センターが所有するマルチアンビル超高圧実験装置「ORANGE-2000」が使用されました。 次に、大型放射光施設「SPring-8」のビームラインの1つ「BL04B1」にて、下部マントルに類似した高温高圧をかけつつ、音速を測定しました。圧力は最大で80億Pa(大気圧の8万倍)、温度は1000℃(1300K)に達します。この環境を生み出し、かつ物理量を測定できること自体が困難であることを考えれば、ORANGE-2000とSPring-8の強みを生かした研究であると言えます。 その結果、柘榴石が重量の約3分の1と、かなり多く含むという想定の試料で測定された音速は、月の地下740~1260kmの深さで測定された地震波の速度とよく一致することが分かりました。一方で柘榴石を少なくした試料で測定された音速は、地震波速度の測定値と一致していないこともあわせて分かりました。 今回の実験から、月の深部には柘榴石がかなり豊富に含まれている可能性が高く、その想定ならば地震波のデータが説明可能である、ということが分かります。柘榴石が豊富な下部マントルは、地球とは大きく違う特徴であり、なぜそのような違いが生じたのかは興味深い疑問です。 このような内部構造の大きな違いは、月が誕生した時の形成過程や、かつて存在していた磁場の起源など、月の基本的な性質がどのように決定したのかの推定にも影響します。今回の研究結果は、月の研究に少なからぬ影響を与えるかもしれません。 Source Marisa C. Wood, Steeve Gréaux, et al. “Sound velocities in lunar mantle aggregates at simultaneous high pressures and temperatures: Implications for the presence of garnet in the deep lunar interior”. (Earth and Planetary Science Letters) Steeve Gréaux. “月深部を解き明かす:ガーネットに富む月マントル?”. (愛媛大学)
彩恵りり / sorae編集部