高校時代に悩まされた「バスの渋滞」が原点 オーバーツーリズム解消を研究
地域をよみがえらせ元気にさせるための切り札として、観光が注目を集めています。政府の積極的な観光政策を背景に、海外からの旅行者は増えていますが、その一方で、訪問客の著しい増加による「オーバーツーリズム」が問題になっています。東京都立大学都市環境学部観光科学科の清水哲夫教授は、理工学的アプローチで、交通の視点から観光を研究しています。持続可能な観光の実現を目指す、清水教授の取り組みを紹介します。 【写真】講義中の清水教授
清水教授は、交通学の知見やデータサイエンスを活用した理工学的アプローチで、持続可能な観光振興のための政策提案や技術開発を行っています。 「魅力的な観光地づくりのためには、地域に合った適切な交通システムや交通サービスが欠かせません。その地域を観光で活性化できるかどうかの多くは、交通分野の課題を解決できるか否かにかかっています。私が目指しているのは、この問題に工学的な答えを出していくことです」 清水教授の研究テーマの原点は、高校時代のバス通学にあったといいます。 「渋滞のせいで毎朝、やたら時間がかかることに、ふつふつと怒りが湧いていました。どうして渋滞車線に赤信号が出ていて、交差するスカスカの車線が青なのか。信号が変わっても、渋滞車線は数台しか進みません。これはどう考えても信号がおかしいのではないか、と。今なら、交差点の交通量から点灯間隔を調整することは簡単ですが、当時はまだ難しかったのです」 東京工業大学工学部土木工学科に進学。交通系の研究室に所属して、「首都高の渋滞の問題をICT技術で解く」というテーマで、研究を進めました。 では、「観光」とのかかわりはどのように生まれたのでしょうか。 「所属していた研究室の教授が、突然『君も観光を研究しなさい』と言い出し、そのうち移動データを扱う専門家として、国の観光統計整備に参画することになりました。思ってもいなかった分野でしたが、やってみたら意外に面白かった。それから、専門である交通学、社会基盤計画学の分野と、観光との接点に取り組み、観光を議論する機会が増えていきました」 2011年には、日本では数少ない理系の立場で観光研究を行う首都大学東京(現・東京都立大学)の都市環境科学研究科観光科学域へ研究の場を移しました。そこでは、理学、工学、農学、社会科学など多様な分野の研究者が、研究分野の枠を超えた総合的な学問として観光研究・教育を行っていました。 「観光は裾野が広い産業で、現実に起きている問題を解くには総合力が必要。それが魅力でもあります。とくに私のように興味があちこちに飛んで広がっていくタイプの人間には向いていたのでしょうね。毎日楽しく研究しています」