AIに最期を任せれば「尊厳死」が可能になるだろうか
AI時代の人間の道
これまで人間固有の特徴とされてきた言語・思考能力を機械が備えるようになりました。生成人工知能(AI)の波が押し寄せってくる中、個人と社会はどのように対応すべきでしょうか。 尊厳死を選ぶのにAIが有用な道具になり得るだろうか。 超高齢化社会への進入を目前に控えた韓国社会で「尊厳死」に対する関心が高まっている。統計庁によると、2023年に70歳以上の人口(631万9402人)が20代(619万7486人)を初めて上回った。韓国社会は2025年に65歳を超える人口が20.6%を記録し、超高齢化社会に進入するものと予想される。超高齢化社会は65歳以上の高齢人口の割合が人口の20%を超える社会を意味する。 医療技術の発達と高齢者人口の増加により、臨終の過程における延命治療への関心も高まっている。本人が延命治療を事前に拒否できる意向書に署名する人が増えている。「事前延命医療意向書」は19歳以上の成人が将来向ける臨終の段階を仮定し、延命治療に対する本人の意思をあらかじめ明らかにして置く文書。病気や事故で意識を失い、本人が望む治療方法を自ら選択できない時に備え、無意味な延命治療を拒否するというのが主な内容だ。延命治療は臨終過程にある患者に施される心肺蘇生法、血液透析、抗がん剤投与、人工呼吸器付着とその他の医学的施術で、治療効果なしに臨終過程の期間だけを延長することをいう。 ■超高齢化社会への進入とともに「延命治療拒否」が拡散 2018年に延命医療決定制度が導入された後に始まった「事前延命医療意向書」の登録に対する関心と参加も増えている。国立延命医療情報ポータルによると、2024年8月5日午前9時現在、事前延命医療意向書を登録した人は249万7527人。2024年現在999万人水準と推定される65歳人口の約25%に該当する数字であり、毎月数万人が新たに意向書を登録している。しかし、依然として絶対多数は生涯最後の段階の医療方式を決めていない状態だ。家族などが代わりに「延命治療の可否」を決めなければならないが、ほとんどの人にとって極めて苦しい過程だ。 心の負担が大きく、長い間罪悪感に苛まれる場合もある。愛する人の人生をあまりにも早く終わらせるのではないかと恐れる場合もある一方、不要な苦痛を延長させたのではないかと心配する場合も多い。 「MITテクノロジーレビュー」は1日、医療界で延命治療の可否の決定にAIを活用しようとする試みについて報道した。同報道によると、延命医療をすべきかどうかを決めなければならない環境にある患者の約34%は、様々な理由により、自分の治療に対する決定を下せない状態とみなされる。米国で治療に関する重要な決定に直面した60歳以上の人口の70%が、自ら決定を下す能力が不足していることが分かった。意識がないか、推論やコミュニケーションが不可能な場合もある。米国は成人3人に1人が事前医療意向書を作成しており、韓国より高い水準だが、依然として臨終段階での決定の90%以上は患者ではなく、他の人が下しているものと推定される。家族などの決定代理人は、患者が望む治療方法に対する考えに基づいて決定を下すが、調査によると、その決定は苦痛である上、患者本人の意思を正確に代弁できない。 生涯最後の段階で延命治療をするかどうかの決定は、患者本人をはじめ、関係者全員にとって大変かつ難しく、その一方で答えを見つけるのが困難な課題だ。患者の意思をまともに反映することが難しく、家族にとっては苦痛であり、保健医療サービスにおいても負担となる。人が遂行してきたことの中で不正確で、苦しく、大変で難しいことは機械を通じた解決を試みる対象になる。 ■米研究「重大治療を控えた当事者の大半が決定能力不足」 生命倫理学者である米国国立衛生研究所(NIH)のデビッド・ウェンドラー氏とオックスフォード大学ブライアン・アルプ氏などは人工知能と機械学習を使って延命治療の決定判断に役立つツールを開発しているという論文を7月に発表した。臨終を控えて患者の年齢、性別、保険状態などの特性をもとに勧める従来の医療的アプローチに代わる新たな試みだ。患者の病歴、Eメール、個人メッセージ、ウェブ検索記録、ソーシャルメディアの掲示物、さらにはフェイスブックの「いいね」のような個人情報を活用し、臨終段階の患者の治療方法に対する意見を予測し提案するツールだ。研究陣はこのツールを「パーソナライズされた患者選好度予測ツール(personalized patient preference predictor、P4)」と呼ぶ。敏感な個人情報と医療情報まで活用し、個人ひとり一人に合わせて設計されるこのツールは一種の患者心理状態の「デジタル複製物(デジタルツイン)」だ。臨終段階の患者の医療サービスに効率的な推薦アルゴリズムになり得るが、生命倫理と関連して多くの問題を提起する。 このような道具を歓迎する側は、数年前にあらかじめ署名した延命治療意向書よりは、患者の最近の考えをよく反映でき、家族が患者の生死を決める過程で経験する心の負担と苦痛を減らせるとみている。生涯最後の段階で合理的な決定ができず、コミュニケーション能力を失った患者と家族に代わりに最適の判断を勧めることができるうえ、社会的保健医療支出を合理化できるというメリットもある。 ■臨終を控えた患者と家族に本当に必要なのが「AIのおすすめ」だろうか だが、生命の最後をアルゴリズム推薦を通じた機械に任せたり助けを受けたりする方式については、関連者が最終選択できるようにツールとして提供されたとしても、反対の声が高い。人工知能が推薦した臨終の方法を受け入れる過程で、家族間の意見衝突が大きくなる可能性があり、アルゴリズムの形で具現されるこのツールを誰が設計し統制するかの問題もある。 これまで誤りと非合理性があっても最も親密で内密な関係の中でなされてきた「決定」と「判断」の過程を「データと予測アルゴリズム」に基づいて工学的に解決しようとする試みが臨終段階にまで拡大する状況だ。「MITテクレビュー」とインタビューした米国ロチェスター大学の臨床倫理学者ブライアナ・ムーア氏は「(臨終相談専門家たちが)することのほとんどは苦しい決定を控えた人々と一緒にいることに過ぎず、彼らにとって良い選択肢はない」とし、「臨終段階の患者の代理人たちに本当に必要なのは、彼らと共に彼らの話に耳を傾け、彼らの役割を確認することによって彼らを支えることに過ぎない」と語った。 ク・ボングォン|人とデジタル研究所長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )